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仏ディオールやゲランなど大手から新興D2Cまで「非接触リテール」への工夫

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非接触リテールの時代」特集。小売サービスが
急激な方向転換を迫られるなか、ヒントとなる
具体策や事例を積極的に紹介していきます。

フランスでは3月17日から続く外出禁止令だが、5月11日から段階的に解除され、少しずつ商業活動も再開に動くと発表された。4万平方メートル以上の大型商業施設をのぞく小売店は営業再開が可能になった。とはいえ、以前と同じ世界には戻れない。オンラインへの積極的な誘導と、オフラインもできるだけ接触を少なくしての再開を探りつつになるだろう。この非常事態のなかで、化粧品企業はどのような非接触リテールを展開しているのか、フランスの大手企業、スタートアップの施策を過去の事例も合わせて紹介する。

LVMH傘下で積極的にデジタル体験を導入しているブランドの1つ、ディオールでは、最高級フレグランスである「メゾン クリスチャン ディオール (Maison Christian Dior)」が、2月中旬からオンライン上で、3Dバーチャルブティックをオープンした。

リアル店舗をバーチャル訪問するショッピング体験

パリのシャンゼリゼ大通り店を3Dで再現し、ユーザーは実際にリアル店舗を訪れるかのように入口から入店。棚の前まで近づき、商品の前に現れるボタンをクリックして商品の詳細情報を確認したり、イメージ動画で香りのコンセプトを実感できる。動画はいずれも高音質で臨場感あふれる作りとしており、視覚と聴覚でラグジュアリーな購買体験を可能にしている。

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出典:メゾン クリスチャン ディオール公式サイト

店内にはファッションデザイナーであるクリスチャン・ディオール氏のポートレートやコレクションの写真が飾られ、同氏が愛したラ・コル ・ノワール城(現在はメゾン・ディオール所有)の動画も流れる。訪問者はブランドの世界観やメッセージが凝縮された空間を360度自由に歩き回り、細部まで堪能しながら商品を購入できる。

また、メゾン クリスチャン ディオールでは、4つのステップで理想的な香水を見つけるコンテンツも提供している。まず、自分用か贈答用かを選択し、3つの質問に答えると、22種類のラインナップから嗜好に合った香水が提案される。香りを嗅がずにフレグランスを購入するのはハードルが高いように思われるが、香りを色に例えたり、想像をかきたてるビジュアルを5つ表示して、どの  "香り高いひと時" を味わってみたいかといったユニークな質問項目により、未知の香りに期待を抱かせる工夫がある。購入時には香水ボトルに名前などを刻んでパーソナライズすることも可能だ。

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出典:ディオール公式サイト

このようなオンライン体験を通してフレグランスを選んだとしても、やはり香りを実際に試したいという人には「Try it First」と呼ばれるサービスも用意している。商品を注文すると、試供品サイズが無料で同封され、商品が到着したらまず試供品サイズで香りを確認できる。香りが気に入らなければ、未開封の商品を返品でき、代金も返金されるというシステムだ。「好みにあわなければ返品できる」という安心感から、オンライン購入を試みる層が増えると考えられる。こうしたサービスは、リアル店舗を訪れることができない行動制限下でも有効だ。

ゲランでは、リップのパーソナライズにARを活用

また、LVMH傘下のゲランでは、口紅の「ルージュ・ジェ」シリーズで、ARを利用してリップとリップケースの色やデザインのシミュレーションを可能にしている。内側に鏡を備えたリップケースは、オンライン上で360度回転させることで、デザインを立体的に確認できるほか、金属部分には名前などを刻むことができる。リップの色とリップケースのデザインを自由に組み合わせることができ、ファッション性の高いパーソナライズを楽しめるのがポイントだ。

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出典:ゲラン公式サイト

一方、2018年にAR企業のModiFaceを買収したロレアルは、AR、AI、音声アシスタントなど新しいテクノロジーを採用してデジタル化を加速しており、2019年のECの売上比率は全体の15.6%に達している。また、CDOのリュボミラ・ロシェ(Lubomira Rochet)氏が、2020年3月17日に同社のYouTubeチャンネルで発信したメッセージによると、2020年は全ブランドでさらなるデジタル化を進め、EC売上比率20%を目指すという。

AR技術を活用した、メイクアップのバーチャル・トライオン

ロレアルで展開されるEC体験といえば、まずModiFaceのAR技術を搭載したメイクアップシミュレーションが挙げられる。昨年末に、シャンゼリゼ大通りにさまざまな体験ができる旗艦店をオープンしたランコムでは、オンラインでもARによるファンデーション、アイメイク、リップのバーチャル・トライオンを提供している。トライ方法は極めて簡単で、試してみたい商品を選択し、PCやスマートフォン内臓のカメラで自分の顔を映す、または写真をアップロードすると、自動的に自分の顔にバーチャルで色が重ねられ、色味の印象の確認ができる。

行動制限下では、Instagramでも
バーチャル・トライオンについて
あらためて発信

ファンデーションの「Teint Idole Ultra Wear」シリーズでは、オンライン診断を導入しており、3つの質問をもとに、45色のカラーバリエーションから自分の肌にぴったり合うシェードを見つけられる。このシリーズでは、理想のシェードの提案後、ARで色や仕上がりを確認して、気に入ったらそのまま購入に進むスムーズな動線が構築されている

EC売上に貢献する強力なインフルエンサー

また、ロシェ氏によると、2019年度は13億人がロレアルのWebサイトを訪れ、YouTubeは74億回再生された。また、同社には8万人のインフルエンサーが協力しているという。「ネットで繋がることがますます増えるコミュニティの世界では、人々は購買行為において他者(の助言や意見)を信用するため、ロレアルの顧客やインフルエンサーは素晴らしいブランドアンバサダーであるだけでなく、優れた販売員にもなっている(=販売にも大きく貢献している)」と語り、なかでも、中国人インフルエンサーの李佳琦(Austin Li)氏は、たった1日で150万ユーロ(1億8,000万円)の売上に貢献したことを一例にあげた。

李氏については、過去記事でもすでに紹介したが、もともとロレアルの化粧品カウンターで働く美容部員で、同社の「BA網紅化(ビューティーアドバイザーのインフルエンサー化)」プロジェクトに選出され、アリババ傘下の「タオバオ(淘宝網)」でライブコマースを始めた。専門性の高い詳細な情報提供と好感度の高いパーソナリティで人気を博し、Weiboのフォロワー数は約1,000万、TikTokの中国版「Douyin(抖音)」のフォロワー数は約3,800万にも及んでいる。

今回のロックダウンのように、突然、実店舗が休業になった場合、丁寧な接客と対面カウンセリングを重視するラグジュアリー化粧品ブランドは、顧客とのダイレクトな関係性を築くことが難しくなる。そんななか、フレキシブルかつリアルタイムで詳細な商品レビューを発信できるインフルエンサーは、EC売上を促進する大きなドライバーといえ、その重要性があらためて見直されるのではないか。

さらに、ロレアル傘下の米国発スキンケアブランド「Vichy(ヴィシー)」では、ModiFaceとロレアルのR&I(Recherche&Innovation)チームが協力して開発した、AIを駆使するデジタルスキン診断「SkinConsult AI (スキンコンサルト AI)」のサービスを提供している。オンライン上でセルフィーを撮るか、または写真をアップロードし、年齢を入力、肌タイプを選択すると、1万件以上の世界中の女性の写真データと比較しながら、肌のエイジング診断を行い、個々人に適した商品を案内する。シワ、シミ、毛穴など、気になる7つの状態をマトリックスで確認でき、どんなケアが必要かを体系的に理解できる。

診断結果では、パーソナライズした
アドバイスとともに、
朝・晩のケアに適した商品を紹介

少ない資金でもオンラインの購買体験を豊かにするD2C

フランスのD2Cスタートアップは、そもそもオンラインが主戦場のため、各社ともさまざまな工夫をこらしている。自社の哲学をしっかり伝えつつ、ファンがどうすれば満足するのかを考え、丁寧に設計されているのが特徴だ。大手企業のような資金力はないが、逆に必要不可欠な要素には投資を集中させてきた。この状況下でも成長が見込まれるD2Cスタートアップ4社を紹介する。

サステナブルなリップスティックブランドLa Bouge Rougeは、リップの色味をユーザーが正しく理解できるようARを導入している。オンライン上でリップとリップケースの色をシミュレーションできるが、リップの色はモデルの唇に塗られた状態で表示され、マット、サテンなど仕上がりの質感をリアルに表現している。1色に対して4種の肌色タイプのモデルの画像が用意されているため、自分の肌色に近いモデルを参考にリップカラーのイメージを掴むことができる

La Bouge Rougeでは、年間約10億本のリップスティックが世界で廃棄されていることから詰替式のリップを開発し、リップケースは何度も再使用できるよう、ベジタブルタンニングの高級感のあるレザーで仕上げられている。また、リップの成分には海洋汚染の一因となるマイクロプラスチックを一切使用せず、絶滅が危惧されるミツバチの蜜蝋も使用しないなど、エシカルなこだわりを持っている。La Bouge RougeのECサイトを訪れるのは、そうしたコンセプトに共感した購入意欲の高い消費者が多く、ARは色選びを楽しむというよりも、購入前のクロージングツールという印象を受ける。

また、ロレアルのCVCファンドBOLD(Business Opportunities for L'Oréal Development)から投資を受けているSillages Parisは、独自のアルゴリズムにより、オンライン上で6つの天然成分を選ぶだけで、パーソナライズされたフレグランスを処方する。わずか5分でオーダーできる手軽さ、容量が15mlから用意され、手の届きやすい価格帯であること、ユニークで印象的なビジュアルなどが、ほかの人と同じ香りをまといたくないミレニアル世代の心を掴み、実際の香りの体験なしでも購入に至らせている。

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もうひとつ、ミレニアル世代が気軽に購入できる理由としては、香りが気に入らなければ、送料無料で返品可能、100%返金すると公約しているからだ。これは2017年の創業当初からSillages Parisが強調している点で、購入すると、試供品サイズ(2 ml)の香水が同封され、本品を開封する前に香りを確かめられる。上述した「メゾン クリスチャン ディオール」のフレグランスと同じシステムだが、違いは自分の好みでオーダーメイドした香水でありながら返品ができるところだ。ただし、同社によると、購入者のうち94%が香りに満足しており、AIのアルゴリズムが消費者の期待に沿った香水を作りだしていることが数字に表れている。

さらに同社は、AIが判定した顧客が気にいるであろう2種類の香水を別途処方し、商品送付時に試供品サイズで同封している。こうした新しい香りに出会えるサプライズもミレニアル世代の心をくすぐっている。

サブスクリプションによる安定した商品供給

一方、家庭用のスキンケアデバイスの先駆けであるビューティテック企業「Romy Paris」は、美容成分の入ったカプセルをスキンケア専用のDIYマシンに挿入してパーソナライズした処方を抽出するサービスを提供。化粧品の原材料となるベースクリームや美容カプセルは、月ごとの定額制(サブスクリプション)を推奨しているため、安定した商品供給ができる。

美容カプセルをマシンに挿入すると、
わずか1分でフレッシュな
コスメができあがる

専用アプリケーションで、大気汚染、天気、睡眠時間、運動、ストレスなど環境条件や、保湿、しわ・シミ対策など希望する効果を選択して、処方をカスタマイズできるので、外出自粛中でも、日々のコンディションに合わせたケアが可能だ。こういったビューティデバイスは、大手企業からの発売も発表されており、IoTかつサブスクリプション方式のビジネスモデルは今後増加していくと思われる。

コミュニティとダイレクトにつながるB2C2C

また、ロックダウン中に、テクノロジーとマンパワーを最大限に生かしてコミュニティに寄り添うスタートアップがある。AIによる独自のマッチングシステムと500名の美のスタイリストにより、一人ひとりに合った化粧品を見つけるパーソナル・ショッピングサービスを提供する「Jolimoi」だ。

同社は約40の化粧品ブランドと提携しており、美のスタイリストはオンライン上でAI分析を行うだけでなく、自宅、カフェ、ビューティパーティなどで顧客に実際に会って商品を試しながら、最適なアイテムを紹介している。美のスタイリストは担当する顧客の肌質や好みを熟知しているため、ロックダウン中でも、Instagramやメールなどですばやく顧客にコンタクトし、必要とされる商品やアドバイスを提供できる。

行動制限下では、創業者や
美のスタイリストがInstagramを
通してコミュニティに語りかける

共同創業者のイザベル・ラビエ(Isabelle Rabier)氏は、Jolimoiを創業する前に、40代以上の女性を対象とした自然派化粧品の訪問販売ビジネスを立ち上げている。しかし、市場が限られているうえ、顧客はひとつのブランドだけで満足しないことを感じ取り、訪問販売のような顧客との距離の近さを大切にしながら、複数ブランドと契約し、AIによるマッチング分析を組み合わせるという現在のビジネスモデルを築きあげた。

2019年にはM・A・C Cosmeticsと提携し、世界で初めてM・A・C商品を使用した自宅でのパーソナライズ・メイクアップレッスンをスタートしている。M・A・C Cosmetics公認の美のスタイリストが顧客の自宅を訪れ、カスタマイズしたアドバイスをする試みだが、自宅というプライベート空間でのサービスを実現できるのは顧客との信頼関係があってこそだ。ロックダウン解除後、どのように対面カウンセリングをしていくかは大きな課題となるが、同社はこのコミュニティとの強いつながりをさらに拡大すべく、年末までに美のスタイリストを1,500名まで増やす方針だ。

バーチャル体験を通してブランドの世界観を伝えたり、AIやARによって適した商品へとユーザーを導くなど、大手企業、スタートアップともに、さまざまな非接触の施策がみられるが、オンラインで商品情報をチェックしたあと、リアル店舗で購入したいと考える層も少なくない。どのようなサービス、コミュニケーションを導入すれば消費者がオンラインで「購入したい」と思うのか。コンバージョンへの施策が今後はますます焦点となりそうだ。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image: Angelina Bambina via shutterstock

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