見出し画像

日本発Lily MedTechが大きく変える乳がん検診と治療、その革新的アプローチ

◆ English version: Japanese firm Lily MedTech set to revolutionize detection and treatment of breast cancer
New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

日本発で世界でもその実用化に注目が集まるフェムテック企業がある。東大系スタートアップのLily MedTechだ。2年後の上市を予定しているマシンは乳がん検診の課題をクリアし、効率的な治療まで視野にいれユーザー(患者)体験を大きく変える。先進国、新興国どちらにおいても、乳がんの検診、診断、治療へのアプローチが大きく変わる可能性を秘めている。

画像1

出典:LilyMedTechの公式サイトより

「現在の乳がん検診にはさまざまな課題がある」と話すのが、株式会社Lily MedTech代表取締役CEO 東志保氏だ。日本における最大の課題は、約41%という日本人女性の乳がん検診率の低さで、これは、OECD(経済協力開発機構)加盟国34ヵ国の中でも最低水準となっている。

マンモグラフィ(乳房X線診断装置)は、乳房を圧迫するため、その痛みに尻込みする女性は多い。そのうえ、マンモグラフィは、若年やとくにアジア人女性に多い乳腺密度の高い高濃度乳房(デンスブレスト)で腫瘍を見つけにくいという課題がある。それを補うのが超音波検査で、乳腺密度に関係なく腫瘍を映し出すことが可能なのだが、撮像を行う検査技師のスキルに依存するところが多く、撮り漏らしのリスクもつねに伴う。

検診率が低いうえに、検診の精度にもばらつきがある。しかも、日本において乳がんは増え続けている。日本だけでなく、世界的にも経済発展と乳がん増加の相関関係が指摘されており、乳がんの早期発見は喫緊の課題だ。

その乳がん検診における、ユーザー側と医師側、さまざまな課題を解決するべく開発されたのが、Lily MedTechの乳房用超音波画像診断装置「リングエコー」だ。その革新的な発想は、ひとつひとつの課題をクリアするどころか、世界の乳がん検診を変え、女性のQOLをあげ、乳がんにまつわる医療費を大幅に削減できる可能性を秘めている。

リング状の超音波振動子を用いた画期的な撮像技術

リングエコーはベッド型の検診装置で、ベッドの中央にある穴には、リング状の超音波振動子が取り付けられた容器がお湯で満たされた状態で設置されている。

画像2

開発装置イメージ
画像提供:Lily MedTech

被験者はベッドにうつ伏せになり、穴の中に乳房を入れて10分程度寝ているだけで、振動子が上下に動きながら超音波を発し、乳房全体の3D画像が撮影される。超音波検査なので乳腺密度にかかわらず腫瘍を見分けることができるのに加え、乳房を下垂させた状態で固定して撮影するため、マンモグラフィのように検査技師のスキルに左右されることなく、均質で再現性の高い撮影が可能だ。そのうえ、痛みや、放射線による被ばくリスクも一切ない。

画像3

使用イメージ
画像提供:Lily MedTech

リングエコーのシード技術になっているのは、リング状の超音波振動子を使ってあらゆる方向から超音波を送信・受信し、その透過波を使って画像化する技術だ。長年、医用超音波や超音波治療の研究に携わっていた同社のCTO東 隆氏が、東京大学COIの支援を受け、2013年にUSCT(Ultrasound Computed Tomography)プロジェクトを発足した。

集束超音波治療(*1)への応用を見据えた治療機器開発の研究の過程で医師にヒアリングを行った際に、現状の検診精度の課題を知り、まずは検診の改善に取り組み、将来治療のモニタリング装置としても応用できる超音波画像診断装置の開発に踏み切った。まずは検診から、そして将来はもともとの研究であった超音波による短時間で苦痛もない治療も可能とする技術だ。

(*1) 病巣に超音波を集中照射して、超音波の振動エネルギーを熱エネルギーに変換させることによって組織を焼灼する治療法

画像4

リング状の超音波振動子
画像提供:Lily MedTech

臨床試験では、乳房に良性・悪性の腫瘍のある50症例に対してリングエコーで撮影を行い、腫瘍の見え方や乳房の撮像範囲、寝心地、AIによる画像診断機能の開発に役立つデータや情報を収集した。

「AIによって良性・悪性の判断支援ができるようになれば、不要な針生検の件数を減らし、結果、医療費削減にも貢献できる」と東 CEOはいう。将来的には撮影された画像から良性か悪性かを判別するAI自動診断支援機能も搭載される。これは、世界中にこの機器が広まると同時にAI自動診断支援の精度もあがり、乳がん診療が専門ではない医師や、専門医のいない地域に住む女性にもメリットがあるばかりでなく、Lily MedTech社にとっても機器の販売はもとより、読影医とAI自動診断支援を組み合わせた安定した診断精度の遠隔診断のサブスクリプションなど、ビジネスがさらに拡大することを意味する。

それぞれの検査手法の特徴比較

画像5

リング状の超音波振動子を用いた装置開発を行っているのは、Lily MedTech以外では米国のベンチャー企業1社のみで、同社もまだ製品化には至っていない。両社の戦略の違いは明白だ。競合社が、まだ診断基準のない新規性の高い撮像機能に特化した開発を進めているのに対し、Lily MedTechのリングエコーは、既存の超音波検査で確立した診断基準を一部取り入れた実用的な検診装置の機能に特化することで差別化を図っている。

現在リングエコーは、医療機器としての承認申請の準備を進めている段階で、2年以内に上市を目指している。

「日本では、マンモグラフィに代わる検査機器として、大学病院や地方の基幹病院、ブレストセンターへの導入を進めていく。そして近い将来、本来の目的であった集束超音波治療機能をリングエコーに搭載し、病院や医師の数が足りていないアジアやアフリカ向けに展開していきたい」と東 CEOは今後の展望を語る。

単にマンモグラフィのリプレイスとしてだけではなく、超音波を用いた、苦痛もなく短時間での治療が可能な医療機器としても注目されていくだろう。まだマンモグラフィも浸透していない新興国では、このリングエコーの恩恵ははかりしれない。

リングエコーによって誰もが簡単に乳がん検診を受けられることが認知され、日本では法規制が緩和されれば、たとえば血圧測定器のように、乳がん検診がもっと手軽に受けられるものになるはずだ。将来、病院やクリニックだけでなくモールなど人が集まる場所にリングエコーを設置したいという構想もあるという。

乳がんの早期発見で、世界中の女性のQOL向上に貢献

東 CEOが、もともと専門だった航空宇宙学の分野を飛び出し、リングエコーの事業化に情熱を注ぐようになったきっかけは、高校生のときに母親をがんで亡くした自身の経験が大きく影響している。

「抗がん剤治療のつらさを身近でみていたので、同じような経験をほかの人たちにしてほしくないと思った。乳がん罹患率が高い30代後半から60代は、女性にとって、仕事、恋愛、結婚、出産、育児とライフイベントの選択肢の多い年代でもある。その選択肢を減らさないように、検診率の向上、早期発見、そしてもし罹患してしまっても、その前後でできるだけ同じような生活が送れるように、女性のQOL向上に貢献していきたい」と東 CEOはその思いを語る。

画像6

株式会社Lily MedTech
代表取締役CEO 東 志保氏

乳がんは、女性が罹患する病気のトップで、世界で毎年210万人が罹患している。早期に発見されれば9割以上は完治が見込める病気であるにもかかわらず、毎年、62.7万人が乳がんによって命を落とすというWHOのデータがある。経済成長で生活が豊かになるとともに、乳がん罹患率が上昇するという研究結果もあり、先進国だけでなく、新興国においても乳がん患者が今後増えていくことは必至といえる。

そうした迫り来る乳がんの問題を早期発見によって大きく解消できる可能性をもったLily MedTechは、NEDO-STS(*2)はじめ、AMED(*3)、J-Startupなどの公的機関の助成企業にも選出されており、 2019年7月には、アフラック・イノベーション・パートナーズからの出資を発表。累計調達額は約8.3億円となった。

乳がんを見つけやすく治しやすい世の中へ。同社の挑戦に国内外からの応援も増え続けている。


(*2 )新エネルギー・産業技術総合開発機構のシード期の研究開発型ベンチャーへの助成事業
(*3 )国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

Text: 小野梨奈 (Lina Ono)


ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
9
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp