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MEDULLAなど、最適解を求めて進化する世界のパーソナライズドシャンプー動向

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肌色に合わせたファンデーションをカスタマイズしたり、個人の遺伝子情報にもとづいたスキンケアの提案など、美容業界全体にパーソナライズの波が押し寄せている。そして数年前から米国を中心に、シャンプーの世界でもパーソナライズ化が進行しており、次々と新ブランドが登場している。この記事ではそんなパーソナライズドシャンプーにはどのようなものがあるのか、現状の評価や今後の展望をまとめていく。

AIの発達は、個人の身体データの集積といった膨大なビッグデータを高速で分析・分類し、ピンポイントの最適化の予測を高い精度で実現した。それはつまり、企業やブランドが商品やサービスを通じて1人の顧客と個別につながれることを意味する。

同時に、ダイバーシティの推進に代表される、個々の違いを尊重することを良しとする社会的な方向性があいまって、現代の消費者はもはや、マスという顔の見えない十把一からげの集合体に向けた製品では満足できなくなっている。人々が求めるのは、他者とは違う特徴を備えた“自分”だけのためにカスタマイズされたものなのだ。

その意味で、毛の色や太さ、クセ、感触など、違いが目にみえてわかりやすい髪をケアする製品が、パーソナライズに向かっていくのは自然な成りゆきといえるかもしれない。

3つのパーソナライズ手法

パーソナライズドシャンプーを考察するにあたり、まずはどのようなサービスがあるのかを振り返りたい。市場をざっと眺めると、大まかに3種類のパターンがあるようだ。

1つめに、現在のパーソナライズドシャンプーの主流といえるのが、ユーザーがオンラインで髪質など複数の質問に答えることで、自分に合った配合のシャンプーやコンディショナーを入手できるタイプである。海外ではFunction of BeautyProseFormulate、日本ではMEDULLABOTANISTといったブランドがある。

出典:BOTANIST公式サイト

大部分のブランドがパーソナライズドシャンプー専業で立ち上げたD2Cモデルのビジネスであり、既存商品をパーソナライズ化したブランドは、ここにあげたなかではBOTANISTだけである。

地域からみても、インドのBare Anatomy、イタリアのShampora、韓国のMingleなどがあり、パーソナライズドシャンプーは世界的なトレンドとなっている。

この分野の草分けといえる米国発のFunction of Beautyは2015年創業で、「たった1人の髪に特化した製品をつくる」ことをミッションに掲げ、現在では原料の調合パターンや色・香りなど、120億通りの組み合わせが可能になっているという。だが、購入に必要な手順は比較的シンプルで、髪質や頭皮の状態、求める効果など、4ステップで並べられたいくつかの質問に答えるだけでいい。

ライバルとしてよく比較されるProseは質問項目が20以上あり、今いる場所(郵便番号を入力すると、その場所の天候や湿度、紫外線状況などが表示される)や運動習慣など多岐にわたる。

こうした違いはあるが、ユーザーの入力内容に応じて独自の配合をしている点では共通している。また、パラベンやサルフェートなどの不使用や、植物由来成分を中心とした配合、動物実験の廃止など、髪や環境への負担が少なく安全であることを強調しているブランドがほとんどだ。これは企業が、メインターゲットをエシカルに敏感なミレニアル世代に据えているからだろう。

2つめのタイプでは、オンラインの質問フォームが使われるが、回答に応じてシャンプーが独自に配合されるのではなく、既成品の組み合わせがレコメンドされる。

典型的なのは、シリコンバレーのスタートアップWalker & Companyが黒人など有色人種を対象に立ち上げたFORMだ。縮れ毛などクセの強い髪質に合った配合成分のシャンプーやコンディショナーを何種類か揃えた自社製品のなかから、各自にふさわしいものをピックアップして提案する。

このタイプでは、おすすめされる商品のバリエーションは1つめに比べると少ないが、ユーザーはオンラインの質問に回答することで、髪診断を受けるような楽しさを感じることができ、また購入する商品への納得感を高めることができる。

3つめは、ユーザーが質問に答えるのではなく、髪そのものを分析してそれに合ったシャンプーを調合するタイプである。

一例では、2018年のCESでSchwarzkopf Professionalがサロン用ソリューションとして発表した「Salonlab」がある。Salonlabは、髪の状態を分析する小型デバイスと、美容師が接客時に使うコンサルテーション用アプリ、100種類以上のシャンプーをその場で調合できる機器をセットにしたもので、サロンに設置して利用することが想定されている。だが、実際に導入したサロンは記事執筆時点で見つからなかった。

またStrandsはユーザーが髪を郵送し、それをStrandsの自社施設でキューティクルの状態などを分析したうえで、適したシャンプーを調合するサービスだ。こちらもまだベータ版段階で、正式な提供開始には至っていない。

前述の2つのタイプでは、「乾燥している」とか「枝毛が多い」といった質問への回答には、各自の主観が大きく反映される。本人はそう感じているが、実際の状態とは違う場合もありうる。それに対し、髪そのものを分析する事例は、客観的なデータにもとづいて個人に合った調合がなされるという点で、消費者の製品への信頼がより厚くなることが予想され、今後の発展が期待されるモデルだ。

パーソナライズドシャンプーの魅力

このようにパーソナライズドシャンプーにもいくつかの傾向ができつつあるが、ユーザーにとっての魅力は何だろうか。

先に述べたように、マス製品とは違い「自分のためだけに作られる」という“特別さ”への満足感に加えて、データにもとづき「あなたに合う」と保証される安心感と納得感があるのが第一。また「診断」そのものにもコンテンツとして楽しみの要素がある。そして、見逃せないのは、シャンプーを選ぶ手間や時間を軽減してくれることだ。

これは、レコメンド機能を持つD2Cのサイト運営者が口を揃えていうことだが、大量の商品と情報がネットに渦巻く現代では、消費者は何を買うべきか、自分に本当にあっているものは何かを見つけ出すことが困難だと感じており、人々は的確なアドバイスを欲している。

MEDULLAを運営するSpartyの深山陽介代表取締役もインタビューのなかで、顧客の多くが「手を抜きたかったわけではないが、今までは様々な商品があり、選択肢が多く、忙しいなかではじっくり選ぶことができなかった」と語っていたことを明かしている。

一方、ブランド側にとって商品をパーソナライズすることのメリットには、価格をより高く設定できる点があげられる。Deloitteの調査によると、自分用にパーソナライズされた美容商品に興味を持つ人たちの71%が「普通のものより高い価格を払ってもいい」と回答している。

実際、BOTANISTの通常のシャンプーは1本1,400円(税抜)なのに対し、パーソナライズされたシャンプーは4,980円となっており、さらに容量も異なるため、100mlあたりで比較すると前者が約288円、後者は約1,261円と実に4倍以上の価格差となっている。海外ブランドのパーソナライズドシャンプーも、比較的求めやすい価格のFunction of Beautyのシャンプーとコンディショナーのセットでも29ドル(約3,000円)と、ハイエンドな価格設定である。

ほかにも、パーソナライズドシャンプーの多くが基本的には受注生産であるため大量の在庫を抱える必要がないこともメリットとなりうる。あわせて、シャンプーの配合は受注ごとに変わるので、商品を最終形態に絞り込む必要がなく、たとえば「グルテンフリーにしてほしい」「高価でもより有効な成分を入れてほしい」といった顧客の新たな要望にも、より柔軟に応えることができる。

パーソナライズドシャンプー市場はまだ成長途上

このようにユーザーにとっても作り手にとっても魅力の高いパーソナライズドシャンプーだが、事業として見た場合は順調に伸びているのだろうか。売上などの具体的な数字を公開している企業は少ないが、Proseは2018年10月の段階で、年末に月商100万ドル(約1.1億円)を達成する見込みとしていた。また、日本のMedullaは、2018年に月商1,400万円に達したとされる。年商数億〜十数億円程度のブランドがいくつか生まれているイメージだが、現在のパーソナライズドシャンプー市場規模は大きめに見ても全世界で100〜200億円程度ではないだろうか。

ただし、Persistence Market Researchの調査によれば、世界のシャンプー市場は2022年には319億ドル(約3.5兆円)、うちハイエンドなセグメント(出典元では「Cosmetic Shampoo」と呼ぶ)は135億ドル(約1.5兆円)に達すると予想されている。今後、ハイエンドなシャンプーにおいてパーソナライズ化が一層進むとすれば、まだまだ伸びしろがありそうだ。

実際に使っているユーザーからの反応にも好意的なものが多く、YouTubeやInstagramのレビュー投稿や、ネットを中心とするメディアの体験記事などでも高く評価するものが目立つ。たとえばYouTubeで「Personalized shampoo」を検索したところ、673万回以上ともっとも多く見られている動画は、美容インフルエンサーのSafiya NygaardによるFunction of Beautyレビューで、「髪がなめらかに、柔らかくなった」「フケが出なくなった」といった効果が語られている。

出典:Safiya Nygaard
「I Tried Custom Shampoo & Conditioner」

Function of BeautyやProseは既存顧客が新規顧客獲得に貢献した場合に5ドルまたは10ドルの値引きとなるプログラムを展開しており、Instagramなどではそのためのコードをbio欄に貼り付けるアカウントも見られる。Google Trendsをみても、2017年頃から「personalized shampoo」というキーワードは、時期によって増減を繰り返しつつも一定の興味を維持しており、目新しさが薄れたあとも、引き続き注目されていることがわかる。

継続利用はフィードバックがカギ?

パーソナライズドシャンプーがどこまで広がっていくのか、課題も浮き彫りになってきた。まずユーザー側から見ると、パーソナライズドシャンプーの「効果」が、パーソナライズされているために得られたものなのかわかりにくいという問題がある。化粧品の成分や効果を検証するサイトThe Beauty Brainsを運営する化粧品化学者のPerry Romanowski氏は、ニューヨークタイムズの記事において、シャンプーは高価なものも安価なものも効果は変わらず、価格が影響するのはコンディショナーだけだと断じている。

パーソナライズドシャンプーは値がはるだけに、ユーザーの期待のハードルも高く、それを満たせない場合の落胆が大きい。さらに、パーソナライズドシャンプーだけでも複数ブランドが競合していることも考え合わせると、「高い値段なりに良いシャンプーだった」という程度ではリピートする動機としてやや弱いのではないだろうか。

この点については、MEDULLAの深山氏が答えの方向性を語っている。同氏の「D2C Brand Showcase 2019SS」での発言によれば、購入直後は良いと思ったヘアケアでも急に合わなくなった体験を持つ人が94%存在しているという。

そのためMEDULLAでは、2019年4月の全面リニューアルに伴い、担当スタイリストが変化する顧客の髪の状態を公式サイトのマイページ上でフォローする経過観察で、顧客が使用する過程をサポートし、月々の製品をそのつど微調整している。さらには、直営店やポップアップといったリアルな販売の場を広げ、自分では悩みや理想をうまく言語化できない人に対し、スタッフが一緒に選択を手伝うなど、対面コミュニケーションの機会を増やしている。顧客のフィードバックをより細やかにこまめに取り入れて製品を改善していくことが、継続した利用につながると考えているのがうかがわれる。

出典:PRTIMES

パーソナライズドシャンプーはいったん作って売ったら終わりということではなく、むしろ、そこが始まりなのだ。Proseは2018年末に1,800万ドル(約20億円)の資金調達を果たしたが、その資金の一部は、それまでに集めてきた約50万人分・各135データポイントの情報を分析するためのデータサイエンスチームの採用に活用し、より効果的な配合の創出を目指している

商品バラエティと生産体制の課題

もうひとつ、ユーザー側が感じる課題は、「パーソナライズ」をうたうわりには選択肢が限られているということだ。まず、製品の種類がシャンプーとコンディショナーにほぼ限定されているケースが多く、それ以外のものがあるとしてもProseのヘアマスクやBOTANISTのヘアオイルなどでバリエーションが少ない。

筆者個人としては「クレンジングコンディショナー」などと呼ばれるシャンプーとコンディショナー一体型のものや、集中ケアパックのような商品を買うことが多いので、こうした選択肢がないのは残念だ。さらにいえば、洗髪だけでなく、スタイリング剤や整髪料に関してもパーソナライズしたものが欲しい。

Prose Pre-Shampoo Mask

また価格に関しても「もう少し安ければ買うのに」という声が多い一方で、「もっと高くてもいいから、究極のシャンプーが欲しい」という人もいる。このような選択の幅が増えれば、ユーザーにとってうれしいだけでなく、ブランド側のクロスセルやアップセルにもつながると考えられる。

メーカー側としては、迅速で柔軟かつ信頼できる受注生産・配送体制をいかに整えるかが非常に大きな課題だ。パーソナライズドシャンプーは受注生産であるためにユーザーが購入手続きをしてから手元に届くまで時間がかかり、それをいかに短縮するかも重要だ。Function of BeautyはOEM工場を利用せずに自社工場を構築しているが、その場合は先行投資が大きくなるため、いかに回収するかが課題となるだろう。

ともあれ、テクノロジーを活用したパーソナライズの大きな潮流は美容業界全体にみられるものだ。当然、ヘアケアにおいても拡大していくと思われる。ロレアルがパーソナライズドヘアカラーブランドを立ち上げ、P&Gが前段で紹介したFORMを買収するなど、大手の動きも表面化しつつある。パーソナライズドシャンプーがどこまで進化するのか、さらに注目していきたい。

Text:福田ミホ(Miho Fukuda)
取材協力:公文紫都 (Shidu Kumon)

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