
AIによる究極の人と人のつながり。サンフランシスコ BeautyTech Meetup の現場から
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2018年6月25日、サンフランシスコで4回目となるBeautyTech Meetup in SFが開催された。今回のプログラムでは、テックをテコに、既存の価値を揺るがす新しいアプローチでビューティ&ファッション業界に新風を吹き込む6人の起業家が、AI、AR、データ分析など技術を駆使して、消費者の心に響く体験を創り出すことをメインテーマに、それぞれの試みや考え方を披露した。
@BeautyTechSFコミュニティは、仏ロレアル出身の投資家オディール・ルジョル氏によって2017年4月に創設されてわずか1年あまりだが、すでにニューヨークやパリ、東京、ソウルなどヨーロッパやアジアの各都市でも定期的に開催されており、450人を超える起業家が参加している。
その趣旨はある意味とてもシンプルだ。自分自身の発案からビジネスを興したスタートアップの起業家たちが一堂に集い、意見やアイデアを交換しあう交流を通して、インスピレーションを受けつつ、課題を解決するヒントや次のステップに向けたプランなどを得る場所を提供しようというものだ。
テーマは「データドリブンなスタートアップ」
Orange Silicon Valleyを会場に開かれた今回のMeetupには、定員満杯の80名が参加。ウェイティングリストは100名にまでのぼったという。
今回のメインテーマは「データドリブンなスタートアップ」。プレシードからシリーズAまでの起業家6名が登壇し、ビッグデータやデジタルマーケティング技術を活かした起業の実体験と、サービスを展開していくうえで乗り越えなければならない課題、そしてときには失敗談が率直に語られた。そこからみえてきたのは、1つの共通する意識、すなわち、ユーザーの隠れたニーズをすくいあげ、各個人にパーソナル化してダイレクトにつながろうとする姿勢だった。
真剣に聞き入る聴衆
AIとリアルコミュニケーションを融合
「ニキビのないキレイな肌は人生を変える。だが、一般の人にとって専門の皮膚科医に会うことは必ずしも簡単ではない」。最初のトークセッションで、一人ひとりの肌に合わせてカスタムメイドしたニキビ処方スキンケアを提供するCurologyの創業者デイヴィッド・ローストチャー博士は、起業の理由をこう語った。
著名な皮膚科医として診療にあたっていた彼は、米国では多くの大人や青少年がニキビの悩みを抱えており、それが日常生活に深刻な影響を与えるまでになっている現状をまのあたりにして、テクノロジーの力で解決する会社が求められていると感じたのだ。だから、オンラインで簡単にキットがオーダーできることと、月額19.95ドル(約2,200円)という手頃な価格の実現にこだわった。
モデレーターのパスカル・ダイアン氏(左)と
デイヴィッド・ローストチャー博士
シリコンバレーにコネクションがなく、金融出身でもなかったため、最初の資金調達には苦労したというが、それ以上に大変だったのは、優秀な皮膚科医たちに今の仕事を辞めて自分たちの会社に入り、ともに開発をしてくれるよう説得することだった。
Curologyでは、ユーザーからオンラインで送られてきた問診票への回答と顔を映したセルフィーは、AIによるデータ分析と同時に、生身の皮膚科医が診断して最終的にパーソナライズした処方を完成させる。
ユーザーは自分の担当医師にチャットでさまざまな相談ができるのも特徴だ。処方された成分について詳しい説明も受けるもよし、普段の食生活のアドバイスや自分に適した洗顔料を尋ねてもいい。この対人のリアルなコミュニケーションとアルゴリズムを組み合わせたビジネスモデルは、未来の医療現場のあり方を先取りしているようにも思える。
ビッグデータから個人へアプローチ
AIとビッグデータを活用して各自の肌に特化した化粧品とスキンケア法を提案するProvenの共同創業者ミン・ジャオ氏は、ある日「シリコンバレーにはこんなに先進的なテクノロジーが集中しているのに、これまでほとんど美容業界に適用されていないと気づいた」ことが起業のきっかけだった。
新聞や雑誌、論文など公共に取得可能なデータはすでに大量に用意されている。そしてソーシャルメディアには、パッションを持ったユーザーによる、実際に使用した感想を書いたレビューが溢れている。これらをプールし的確にアウトプットすれば個人の抱える課題を解決できると考えたのだ。
Provenは現在、10万点のスキンケア製品、2万種の原材料、4,000本の科学論文や学術記事、さらには、800万件のカスタマーレビューを網羅した業界随一の巨大データベースを構築。顧客に最適な提案ができる背景となっている。あわせて、顧客がどこに住んでいて、どんなバックグラウンドを持ち、どんな肌の問題を抱え、どの商品が良かったか、あるいは悪かったかという顧客データも蓄積している。
左からモデレーターのクレア・チャン氏、ジェイ・ハック氏、ミン・ジャオ氏
同じく「美容業界とテクノロジーは長い間分断されていた」と語るのは、業界初の美容専門AIリサーチ・プラットフォームMiraのCEOであるジェイ・ハック氏だ。スタンフォード大でAIを学び、CIAの支援を受けるデータ分析企業Palantir Technologiesに在籍していたハックは、2億本のチュートリアルビデオ、8万の商品、10億件のカスタマーレビュー、15億の画像に加えて、3万人の美容好きインフルエンサーを囲い込み、各ユーザーに最適化したコンテンツを紹介する美容コミュニティを目指している。
このセッションに登壇した2人はともに、オンライン上に存在する膨大なコンテンツをAIによって精査分類し、個人が美容プロダクツを探したり、インスピレーションを得たりするプロセスをスムーズにしようとしているのだ。
情報の海のなかで人間が溺れぬように、その都度、羅針盤を示す役割を担っているともいえる。「顧客一人ひとりにマッチしたソリューションを提案するだけでなく、テクノロジーを身近に感じてもらい、使いやすいと思ってもらい、シェアしてもらうことも重要」とジャオ氏は話し、テクノロジーが、ネットワークの末端に存在する個人をコミュニティとしてつなげていく可能性も示唆した。
ニッチな領域でのサービス展開
また、別のセッションではファッションやデザイン分野で注目のスタートアップが登場。いずれも消費者のニッチなニーズに応えるビジネスで成長をしている。
最後に行われたトークセッションの模様
たとえば、ソーシャル・プラットフォームBSPKは、高級ブランドなど高額消費財を購入する際、画像やビデオを利用して販売スタッフと買い物客とのコミュニケーションの質を高めることで、よりラグジュアリーなショッピング体験を創出し、顧客エンゲージ率の大幅アップに成功。
一方、月額17ドルのサブスクリプション方式で、世界的に有名な建築家やインテリアデザイナーによるインタラクティブなライブ動画ワークショップや限定イベントなど、ここにしかないコンテンツにアクセスできるウェブサイトが、Mosssだ。
また、ジャマイカ出身のステファニー・マックリーン氏がCEOのファッションEC、Trendy Treatは、世界中のエッジの聞いたファッションデザイナーによる服を簡単に探せて安価に購入できるほか、ユーザーがサイト上で自由に服をデザインしてオーダーできる機能も持つ。生産はエシカルな工場に委託するなど、環境にサステナブルなビジネスを構築し、ローカルコミュニティや低賃金労働者をサポートする仕組みを目指している。
ここでもサービスのキーワードは、“あなた一人のために寄り添う”パーソナライゼーションだ。
このように、BeautyTech Meetupは、起業家による起業家のための、学びや気づき、苦労をわかちあう場であると同時に、ビューティ&ファッション業界の向かう先やビジネストレンドをいちはやく感知できる集まりとなっている。コネのない起業家が投資家をみつけるには、まず説得できるプロトタイプを完成させるべきといった具体的な提案から、テクノロジーと業界の関係性という壮大なテーマまで、ときに踏み込んだ質問も飛び交う熱気に満ちた会場はBeautyTechの未来を映し出す。
次のMeetupはニューヨークで9月17日、サンフランシスコで9月25日に予定されている。
Text: BeautyTech.jp 編集部
Coordination:高橋クロエ
Photo:BeautyTech MeetUp in SF