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パーソナライズヘアカラー「COLORIS」に始まる“ニードルブランド戦略”のすべて

◆ English version: Pinning down success with COLORIS’s “needle brand strategy”
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2019年秋に誕生したパーソナライズヘアカラー「COLORIS(カラリス)」は、ポーラ・オルビス ホールディングス出身の梅野祐樹氏が設立したスタートアップ、ストークメディエーションのいわば第1弾ブランドだ。そのCOLORISの全容と、梅野氏が “ニードルブランド戦略”と名づけて挑むライフスタイルブランド構想について話を聞いた。

COLORIS(カラリス)」は、ユーザーの髪の状態やなりたい髪色にあわせてヘアカラー剤の処方をカスタマイズし、自宅まで送り届けるサービスだ。1万通り以上の組み合わせから、個人の要望に沿った商材を提案する。価格は3,980円からで単回、または、定期購入から選択できる。注文翌日(関東近辺の場合)にはポストに商品が届き、自分の好みの色ですぐ染めたいというユーザーニーズに応えて、順調に会員数をのばしている。

運営するのは、これが初ブランドとなる株式会社ストークメディエーションだ。同社代表取締役CEO 梅野祐樹氏が、ポーラ・オルビス ホールディングスから独立し、創業したスタートアップである。

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ヘアカラー剤、トリートメント3日間分、
手袋、コームブラシ、ケープ、
イヤーキャップ、カップ( ※)
がセットになっている。
(※)は初回のみ
画像提供:ストークメディエーション

COLORISのサービス利用にあたって、まずは髪の長さや太さ、前回髪を染めた時期や、なりたい髪色など11の項目についてweb上で回答する。この回答結果をもとに、カラー剤の処方や染め時間、トリートメント剤の組み合わせが決まる仕組みで、そのロジックは現役の美容師にヒアリングした内容を反映して設計されているという。

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11の質問に回答すると
商品を提案してくれる
出典:COLORIS 公式サイトより

「ヘアサロンでは美容師が顧客の髪の状態を確認したり、ヒアリングしたうえで、髪のキューティクルを剥がす薬剤(ディベロッパー)と色味を加える薬剤(カラーベース)の2つを調合し、ヘアカラーの施術をする。その工程をweb上の診断に置き換えることで、自宅でサロンクオリティのカラーを体験できるようにした。サロン用ヘアカラー国内トップシェアのOEMメーカーである資生ケミカルに製造を委託して、商材の品質を担保しつつ、中間マージンである技術料を省くことで手頃な価格帯で提供している」(梅野氏)。

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株式会社ストークメディエーション
代表取締役 CEO 梅野祐樹氏

個々の髪質に応じたパーソナライズシャンプー領域では、日本でもすでにいくつかの企業が参入しているものの、パーソライズヘアカラーに関してはCOLORISが国内初のブランドとなる。ブランド立ち上げにあたって、梅野氏は、ヘアカラーのLTV(顧客生涯価値)の高さに着眼した。

「シャンプーやトリートメントなどと比較してヘアカラーはLTVが高く、商品を一度気に入ってくれれば、長く使い続けてもらいやすい商材だといわれている。D2Cというビジネスモデルを考慮し、スイッチされにくい商材をエントリーモデルとして、まずはブランドの基盤を固めることに力点を置こうと考えた。シャンプーやトリートメントはヒットさせやすいが、スイッチもされやすい」と、梅野氏は説明する。

さらに「海外では、マディソン・リード(Madison Reed)イーサロン(eSalon)といったパーソナライズヘアカラーのD2Cスタートアップが台頭しており、パーソナライズシャンプー分野と比べると10倍のスピードで成長している。さらに、マディソン・リード、イーサロンのいずれも、成功確度が高いとの判断から投資家が自ら独立して興したスタートアップだった」ことも後押ししたという。

オンラインでのヘアカラー体験定着の施策を展開

梅野氏は、2008年にポーラに入社。その後、ポーラ・オルビス ホールディングスへ移り、新規事業開発やCVCの立ち上げなどに関わってきたキャリアを持つ。2018年11月に独立してストークメディエーションを設立、前職で培った人脈を駆使して2019年9月にCOLORISをローンチした。

COLORISの現在の利用者は300名ほどで継続率は9割にのぼる。事業を進めていくなかでは、消費者がヘアカラーのweb診断になじみがないため、診断を受けてもらえるきっかけ作りが必要なこともわかってきた。「髪の太さや細さ、白髪の多い少ないを自分では判断できない」といった声も寄せられていることから、web診断をサポートする目的で、専門知識を持つ美容師にLINEのチャットで髪の状態をカウンセリングする取り組みも新たにスタートした。

直近では、動画メディア「C CHANNEL STORE」にて販売プロモーションをスタート。今後は、ブランドの世界観を伝えるオフラインイベントを開催していく予定で、ポップアップストアの出店に向けた準備も進めている。梅野氏のポーラ時代の同僚で、COLORISのブランドプロデューサーを務める稲葉菜月氏は「実際に美容師にカウンセリングをしてもらいながら、web診断から注文までを体験できるような企画を考えたい」と話す。

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COLORIS ブランドプロデューサーの
稲葉菜月氏

海外をみれば、グローバルプレーヤーによるパーソナライズヘアカラー領域への進出が始まっている。2019年にはロレアルが「Color&Co」をローンチ、また、ヘンケルが前述のイーサロンを買収しており、この先、日本に進出してくる可能性もある。こうした動きを、梅野氏は「プレイヤーが増えれば市場が活性化するというよい面もある。COLORISとグローバルプレーヤーはブランド戦略も異なるため共存できる」とみる。

ライフスタイルブランド100の創出を目指す

ストークメディエーションでは「COLORIS」の展開だけでなく、複数のブランドローンチを計画している。「2040年までにライフスタイルブランド100個の創出」が目標だ。マスブランドが生まれにくいマーケット環境にあって、ニッチながらより深く顧客に“刺さる”ブランドを並列に展開していく方針で進めている。時代の変化が早く、10年単位の長期的にみた場合、顧客の価値観の多様化がより広がる可能性があるとみているからだ。

こうしたブランド事業の展開形態は非効率のようにも思えるが、梅野氏によれば「不確実性の高い時代においては、非効率こそが効率を上回る」のだという。

「投資に例えるならば、直接関連しない、独立性の高い事業を多角的に展開する複合企業は非効率とみなされ、時価総額が下げられるコングロマリットディスカウントがこれまでは一般的だった。が、これからはコングロマリットバリューアップの時代が来るとみている。不確実性が高い時代においてはコングロマリット化した事業体の方がリスク分散でき、価値が高くなるのではないか」(梅野氏)。

コングロマリット化の実現に向けた手段としては、自社での新規事業立ち上げ、M&Aや投資など幅広く想定している。ギグ・エコノミー化する時代背景と、経営の機動力を担保するため、プロジェクトメンバーには正社員としての雇用ではなく業務委託という形で加わってもらう組織体制をとっていくとする。

「D2Cのビジネスはバリューチェーンが長く専門性の高い人材が必要だが、スキルセットのある優秀な人材は組織に属さないケースが増えてきている。また、従来型のコンサルタント的に何社もかけ持つのでなく、ある程度プロジェクトにコミットする形で数社に絞って活動している印象がある。そうした優秀な層と一緒に働くためには、あえて正社員という形に縛らない方がよい」(梅野氏)。

COLORISのブランドプロデューサーが稲葉氏であるように、今後ローンチするブランドでも、ブランドコンセプトやコミュニケーション設計ができる人材を責任者として据える体制で進める。ゆくゆくはサイバーエージェントのように、事業者側とブランドトップがストック・オプションで株式を分け合い、双方にメリットが生まれるような関係性を模索していきたいという。

物流やカスタマーサポート、経理などのいわゆるバックオフィスといった、D2Cのバリューチェーンに欠かせないアセットを準備することは、小規模事業者にとっては簡単ではない。そこでCOLORISを皮切りに、これから先行して立ち上がるブランドのノウハウの共有、また、部門横断で共有できるリソースを活用していく考えだ。

消費多様化時代に有効な“ニードルブランド戦略”

前項で説明した経営スタイルや事業展開を含めた構想を、梅野氏は“ニードルブランド戦略(=それぞれのブランドが顧客とよりエンゲージメントした状態をニードル「針を刺す」にちなんだ)”と呼んでいる。消費が多様化し不確実性の高い時代において、マス(大衆)向けのブランド展開は容易ではなく、むしろ、特定のセグメントに絞り込みそれぞれのニーズに沿ったブランドをいくつも展開していくことでニーズを満たすというものだ。

この考えは、美容大手などが提唱する“スモールマス(=マスを狙うのではなく、特定のセグメントに対象顧客を絞り込み、エッジの立ったブランドを展開する)”とも重なる部分もある。梅野氏のこうした構想もこれまでのキャリアから組み立てられたものだ。

大学卒業後入社したポーラの初期配属では、パーソナライゼーションの先駆けといえる「APEX(アペックス)」で在庫管理を担当。すさまじい数の商品を目の前にしてそのブランドの熱量に圧倒された。「最終的にブランドというのは、人がつくるものだ」と実感したという。

その後は、経営企画やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)部門で投資にも従事してきた。ゆえに、ポーラ・オルビスのCVCが掲げる方針や、D2Cに対する見方についても共通の考え方がある。

梅野氏自身も "ポーライズム" ともいえる経営思想が根底にあると自認しており、「独立してもポーラ時代と言っていることは変わりない」と話す。すでにポーラ・オルビス ホールディングスは、グループや子会社である「POLA」「ORBIS 」「THREE 」といった独立性の高いブランドと、そのほかの食品や衣類などの展開によるコングロマリット化を実現しており、梅野氏はロールモデルと捉えている。

「2020年は、これまでに登場した数多くのD2Cブランドのなかから、インパクトあるヒットを出すブランドが登場する」とは業界関係者の声だ。梅野氏の“ニードルブランド戦略”を実現するためには、まずは第1弾のCOLORISが今年どのような成長を遂げ、第2弾、3弾とどんなブランドが生み出されるのか、その動向が注目される。

Text & photos: 清水美奈(Mina Shimizu)
Top Image: ストークメディエーション提供

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