ファイナリストたちが語る美容・健康・社会の変革【第2回Japan BeautyTech Awards2021後編】
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株式会社アイスタイルは2021年3月5日、第2回Japan BeautyTech Awards 2021の大賞、準大賞、および特別賞を発表。授賞式後には、受賞企業とファイナリスト企業によるトークセッションが行われた。美容業界の変革が今まさに起きていることを感じさせる3つのセッションで示された“すぐそこにある未来”を紹介する。
社会へのインパクトとこれからの美容、Japan BeautyTech Awards 2021トークセッション
東京・虎ノ門ヒルズ内CIC Tokyoで開催された第2回Japan BeautyTech Awards授賞式のあとには、第二部として、審査員をモデレーターに、4社の受賞企業とファイナリストに選ばれた企業のなかから4社が登場する3つのトークセッションが開かれた。
これは、同賞に応募された65件のプロジェクトがいずれもイノベーティブで、さまざまなレベルにおいて美容業界の未来を拓くと予想される内容であったことをかんがみ、各企業の知見をより広くシェアしたいとの考えから企画された。
美容と健康の領域をマージさせる新発見の基礎技術や、フェムテックの隆盛が意味する社会の変化、テクノロジーが後押しする新しいビジネスコミュニケーションと働き方など、美容領域の広がりを感じさせるセッションの模様をレポートする。
※ 第2回Japan BeautyTech Awardsの受賞企業とプロジェクトの詳細な紹介は、こちらの「JBTA2021前編」から。
第2回Japan BeautyTech Awardsの
受賞企業代表者4名
【美容領域の基礎研究】
セッション#1 肌を想うテクノロジー
セッション#1「肌を想うテクノロジー」に登場したのは、幹細胞とゲノム編集の技術を応用し、さまざまな段階のバリア機能レベルを持つ三次元培養皮膚(人工皮膚モデル)の作製技術により、大賞を受賞した日本メナード化粧品株式会社 総合研究所 研究技術部門長 長谷川靖司氏。あわせて、ファイナリストとなった花王株式会社 スキンケア研究所 室長 樋口和彦氏と、株式会社桃谷順天館 桃谷総合文化研究所 所長 杉野哲造氏である。
花王は、皮脂に含まれるRNA(リボ核酸)を分析する独自技術「RNAモニタリング」で応募した。DNAが各自固有の遺伝子情報として一生変化しないのに対し、RNAは体の部位や組織ごとに種類や量が異なるほか、その時の体調や環境によって日々変化する性質をもつ。このことから、いくつもの要因によって常に変わる肌状態を正確に分析・把握することに、RNAは有効であり、一人ひとりによりパーソナライズした肌の手入れ法などが提案できる。
一方、桃谷順天館は、ニキビ研究を続けるなかで皮膚常在菌に着目して、肌に悪い影響を及ぼす菌のみを選択的に減らし、肌のフローラバランスを整える成分“フローラコントローラ”を研究開発。化粧品に配合したり、繊維に練り込み「着けているだけで潤い効果のある」布マスクなどの開発を行っている。最近では腸内細菌に関する研究も進め、サプリメントや食品の開発も進めている。
このように3社はいずれも肌に関係する基礎研究からブレイクスルーとなる新発見を導き、事業化につなげていく道筋を歩んでいる。たとえばメナードでは、近い将来、一人ひとりの肌の状態を再現した皮膚モデルを試験管レベルで培養・作製し、その人工皮膚を使って刺激物のテストや各自に最善の成分を探索することで、真に自身に合った化粧品を導き出す美容サービスなどを思い描いている。
左から、桃谷順天館 杉野哲造氏、
花王 樋口和彦氏、
メナード 長谷川靖司氏、
モデレーターの村上要氏
こうした肌を美しくするための研究からみえてくるのは、美容と健康の融合であるように思うと、審査員の1人で、モデレーターを務めたWWDJAPAN.com編集長 村上要氏が問いかけると、杉野氏は「皮膚常在菌は化粧品や生活習慣などでコントロールができる」として「美と健康は表裏一体」と語る。あわせて「肌を取り巻く環境が変わるのに伴い、求められるサービスも変わる」として、今後は業界の垣根に関係なく、大企業からスタートアップまで、さまざまな研究開発がありえることを示唆した。
長谷川氏は「美容も医療も目指すところは一緒で、いかに楽しく自分の人生を生きるかではないか」と話し、日頃から健康を維持する予防医学という考え方があるように、現在の肌状態を良好に保つことで将来の老化や肌トラブルに備える美容のあり方に言及。樋口氏も同様に、RNAモニタリングによって得られた現在のRNA情報と、肌や体の加齢変化のデータベースをマッチさせることで、エビデンスにもとづいた将来予測ができ、今できる対応策をとることが可能になるとの考え方を示す。
また、樋口氏は最近目にした研究成果として、皮膚が良好になると体内の老化マーカーが下がることがわかったと紹介した。これまでは体が健やかになれば肌も美しくなると思われていたが、「皮膚を整えることで体がよくなる」可能性を示して、会場からは驚きの声があがった。
【盛り上がるフェムテック領域】
セッション#2 女性に寄り添うテクノロジー
セッション#2「女性に寄り添うテクノロジー」では、女性の更年期の悩みを女性医師チームにチャットで相談できるサービスの法人向けパッケージを立ち上げ、準大賞を受賞した株式会社TRULYのCEO二宮未摩子氏と並び、超吸収型サニタリーショーツを開発した株式会社Bé-A Japan(ベア・ジャパン)代表の髙橋くみ氏が登壇した。
Bé-A Japanのサニタリーショーツは、一般的に多いとされる2日目の量30〜50mlを優に超える120mlもの吸収量があり、ムレにくく快適なはき心地と、100回洗っても吸収量は変わらない耐久性を実現している。2020年6月にクラウドファンディングサイトCAMPFIREで行った先行予約販売では、9,062名の支援者数と1億円を超える支援総額を獲得。発売から7ヶ月で4万枚を売り上げている。
だが、開発にはたくさんの苦労があったと髙橋氏は話す。なかでも「ショーツを製造してくれる工場探しが大変だった。『そんなものが売れるのか?』と言われて20社に断られ、諦めかけたときに、ようやく尿もれショーツ開発技術のエキスパートである工場との協業にこぎつけた」と明かす。
株式会社Bé-A Japan代表 髙橋くみ氏
モデレーターの一橋大学大学院 経営管理研究科 教授 七丈直弘氏は、SOMPOひまわり生命のアンケート調査ではフェムテックという言葉を知らないと回答した人が92.5%にのぼることを紹介し、生理をはじめとする女性の身体状態に対する社会の認知がいまだに低いことを示唆する。
更年期症状などの健康不安から、昇進や経営マネジメントに参画するのをためらう働く女性が多い現状をなんとかしたいとの思いから、TRULYのサービスの立ち上げに至ったという二宮氏も、展開にあたっては「“更年期”のイメージの悪さに困った。女性としてもう終わりのようなネガティブな印象」で、話題にしたくない雰囲気があったという。
日本ではまだまだ、女性自身も更年期に正面から向き合うのを好まない傾向があるが、「正しい知識を理解すると男性でも興味があがる」として、人々の意識を変えていく情報発信を積極的に続けていくことが、男女を問わず生きやすい世の中につながるとの見方を示した。
TRULY CEO二宮未摩子氏
【美容業界を支えるインフラとして】
セッション#3 働く人たちが笑顔になるテクノロジー
セッション#3「働く人たちが笑顔になるテクノロジー」には、モデレーターのストライプインターナショナル 広報チーム マネージャー 都築千佳氏が「共通点は業界を幸せにするインフラを手掛けるところ」と紹介する3社が登場した。
AR/AI技術により、さまざまなシーンでブランドと消費者のコミュニケーションを作り出すビューティSaaSを展開するパーフェクト株式会社 代表取締役社長 磯崎順信氏と、通販向け出荷ラインに無人搬送ロボット(AGV)を導入し自動化を促進したオルビス株式会社 QCD統括部 SCM推進担当部長 小川洋之氏の、特別賞受賞社の2名、そして、日本美容創生株式会社 代表取締役兼CEO 金山宇伴氏である。
日本美容創生は、一般女性ユーザーと美容師やエステティシャン、ネイリストなどの女性技術者をつなぐ「Beauty Venue」と、女性技術者と美容室をつなげる「Beauty Venue Pro」により、三者間のマッチングサービスを提供する。「Beauty Venue」では、自身を理解してくれる技術者に価値を感じている女性ユーザーが人同士のつながりを持つことができ、あわせて美容に関する施術情報・施術履歴も自身で管理や利用ができる。「Beauty Venue Pro」は女性技術者にとって美容設備を固定費から変動費に変え、個人事業主・フリーランスにとって柔軟な働き方を可能にする。
金山氏は「ユーザー(一般女性)、スペシャリスト(資格・技術をもつ女性)、美容室をつなぐ、アプリを使ったマッチング」と説明し、「美容室をいわば社交場という基点にして、地域のコミュニティづくりを図りたい」と意気込む。
磯崎氏もまた、「我々の役割はあくまでブランドとユーザーのエンゲージメントを高めること」との立場を明瞭に語る。「AR/AIバーチャルメイク」「AI肌チェック」はもとより、ユーザーはその場でバーチャルメイクも受けられる美容部員とのオンラインカウンセリング「BA 1 on 1」、ライブ動画配信中のバーチャルトライオン機能を備えた「ウェブ&モバイルアプリ用ARライブキャスト」などのサービスは、コミュニティ内の双方向タッチポイントとして機能しているとする。
左から、日本美容創生 金山宇伴氏、
パーフェクト 磯崎順信氏、
オルビス 小川洋之氏、
モデレーター 都築千佳氏
一方、小川氏は「出荷ラインの自動化は、社会全体で倉庫や配送など物流現場の人手不足が起きたのがきっかけ」と話す。1オーダーに対して1台のAGVを割り当て、AIを活用した制御システムから指示を受けたAGVが、集荷から検査・梱包作業場所まで最適なルートを走行して循環する仕組みを作り上げ、「人間のスタッフが商品に触れるタイミングは、ピッキングや最後の梱包、配送の時だけ。目指したコンセプトは、人間のスタッフに極力商品以外のモノを触らせない仕組みを作ることだった。それがAGVにより実現し、工程がシンプルになり、働く人の負担が大きく減った。結果として、従来に比べ出荷能力が1.3倍となり効率化にもつながった」と成果を語った。
「技術的には梱包までの全工程を自動化することも可能だったが、化粧品メーカーとして、ユーザーが箱を開けたときに商品が美しく梱包されていることも大事な要素だと考えた」と、あえてヒューマンタッチを残したと小川氏はいう。AGVたちが、かいがいしく働く姿にどこか生き物のような愛嬌が感じられ、選考過程では審査員から「カワイイ」との声も上がった。機械と人間が協業する現場には、働き方の未来像が垣間見える。
■Japan BeautyTech Awards 2021エントリー企業・プロジェクト一覧はこちらから
■授賞式およびファイナリストによるトークセッションのアーカイブ動画はこちらから
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image & 画像 : 中山実華(Mika Nakayama)
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