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AR、VR、パーソナライズ、データ。各社事例にみる「売り場」と「消費者」の変革

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フルーツギャザリングやパルコなどリアル店舗でのARやVRのトライアル。エスティ ローダーのLINEによる接客改善や、カネボウが考える「バイアスのかからない」データ収集、そしてEコマースの購買体験向上。「Beauty x Tech Forum2018」で披露された各社の特色あるテクノロジー、データとの向き合い方は、これからの購買体験を先取りしているかのようだった。

2018年10月12日、都内で「Beauty x Tech Forum2018」が開催され、美容関係者約100名が来場した。イベントではリアル店舗やECでのテクノロジー活用という点で、とくにミレニアル世代向けにいかに購入体験を向上していくのかの議論が活発に行われた。その中から、学びの深かった事例を紹介していきたい。

ARテクノロジー活用、失敗や課題が成功のカギに

まずはリアル店舗でのテクノロジーやデジタル施策だ。創業から6年、全国で21店舗を展開するビューティセレクトショップ「フルーツギャザリング」は、既存店ベースで毎年115%の成長率を誇る。これまで百貨店のカウンターでしか購入・体験できなかったような化粧品ブランドを、顧客が自由に手に取り、購入できる場を提供。忙しい女性でも利用しやすいようにと、駅構内に店舗を構えるなど出店場所にもこだわる。

銀座店オープン時に「新しいことをしたい」と、当イベントの主催者であるパーフェクトのバーチャルショッピングアプリ「YouCam メイク」を導入。天井から垂らした数枚のスマートミラーにアプリを内蔵し、これらを「魔法の鏡」と呼んで、あらゆるカテゴリ、ブランドのバーチャルメイクを試せることを店舗の売りにした。オープン当初はメディアも集まるなど話題を呼んだが、2-3ヶ月もすると利用客は伸び悩んだという。

写真:著者撮影

その理由について、フルーツギャザリングを運営する、エフ・ジー・ジェイ株式会社の出合寛幸営業本部長は、「『楽』=楽しいという経験、利便性(ラクさ)の2つが欠けていた」と分析する。

エフ・ジー・ジェイの出合寛幸営業本部長

同社は、百貨店の化粧品カウンターでは実現しにくかった、美容部員を介さずとも体験・購入できる利便性を追求していたにも関わらず、「わざわざ駅から数分の距離にある店舗まで足を運び、スマートミラー上で欲しいブランドやアイテムを選び、自分の顔を映してバーチャル体験をし…と時間も手間もかかる場所になってしまった」(出合氏)と、本来の自社の強みを活かしきれなかったことが伸び悩みにつながったと考えた。そこで銀座店での反省を生かし、最新の二子玉川店では同じくパーフェクトのサービスを導入したが、「楽」をテーマに3つの改善を施した「LIP STAND」を設置した。

写真:著者撮影

来店客はLIP STANDの前を通るだけで、鏡に映った自分の唇に様々なリップがのった様子が見て取れる。スタンドを設置したのは、店内でもっともトラフィックが集まる場所だ。ここに置くことで、改善1つめの「まず見せる」を実現した。2つめのリップ限定にしたのは、ファンデーションやマスカラといった「カテゴリを選ぶ」煩わしさから解放し、ブランドを選ぶことだけに集中してほしかったからだ。

スタンドの周りにテスターを置いたのは、バーチャルでどのブランドの、どの色のリップが似合うかある程度目星をつけてから、実際に試してほしいという思いがある。リアルとバーチャルの行き来を簡単にできるようにしたというわけだ。「気楽に、しかも楽しい」を取り戻したことで、「銀座店とは比較にならないほど、バーチャルメイクを試し購入していく客がいる」(出合氏)という。

写真:著者撮影

過去の反省を生かし成功例に変えたブランド側の施策として、エスティ ローダーの事例も参考になるだろう。エスティ ローダーは主力商品のリキッドファンデーション『ダブル ウェア ステイ イン プレイス メークアップ SPF10/PA++』のテレビCMを毎年6月に打つ際、来店客は一気に増えるものの、一方で接客へのクレームが増える可能性があることが懸念だった。店頭に来る顧客は、その場で試したいか、すぐにサンプルを持ち帰って自宅で試したいかの2パターンがあるというが、混雑時にはそうした顧客の希望に応えられる余裕がなくなってしまうこともあり、結果として「お客様の期待値に沿っていないコミュニケーションになってしまう懸念があった」(ELGC株式会社 エスティ  ローダー事業部 マーケティング本部 宮下麻未デジタルマーケティングマネージャー)。

そこで始めたのがLINEサンプルチケット発行時の工夫だ。LINEの公式アカウントで友だち登録後、「店頭でのサンプル受け取り時、カウンセリングは必要か?」と投げかけ、そこに「はい(座って色をみてもらいながら試したい)」か、「いいえ(すぐにサンプルを持ち帰りたい)」で答えてもらうようにした。あとは、LINE上で回答に応じたサンプルチケットが発行されるので、ビューティーアドバイザーが瞬時に顧客のニーズを把握できるようになり、顧客満足度の向上と現場の効率化を同時に達成できるようになった。

エスティ ローダーのLINEアカウント画面

「非対面」のECでパーソナライズの精度を高めるには

ビューティテック分野で最も注目したいキーワードのひとつが、「パーソナライズ」だ。個人の希望や嗜好に基づき商品を提案し、購入後のフィードバックを元にその内容をより最適化させるというものが多い。精度を上げるために、AIを活用したサービスも増えつつある。ECにおいては、機械と人のどのようなバランスでパーソナライズ化をはかるのかは各社それぞれ知恵をしぼっているところだ。

ファッションECでは、ソフトバンクとアパレル企業ストライプインターナショナルの合弁会社 株式会社ストライプデパートメントが、“自宅に、ポケットに、いつでもデパートがある”というコンセプトのもと、2018年2月に大人のためのECデパートメント「STRIPE DEPARTMENT」を立ち上げた。

その中で、プロのスタイリストが顧客の手持ちの洋服や要望に合わせて、スタイリング提案するオンラインサービス「パーソナルスタイリング」をスタート。パーソナライズへの需要は高まる一方で、ECだと対面での接客ができないことから、「カウンセリングができない」、つまり顧客が抱えている本当の悩みやニーズを把握できないという課題があった。そこで同社が目をつけたのが、アンケート機能やスタイリストとのチャットカウンセリングによるパーソナルスタイリングだ。

写真:著者撮影

チャットカウンセリングは顧客からの反応が良く、チャットしていない場合と比べ、購入率は1.38倍、購入単価は1.17倍といった結果も出ているという。

同社の執行役員 最高技術責任者の松本均氏は、「ECは物理的な制限がないため、幅広い商品アイテムから提案が可能」とパーソナライズドサービスとの親和性の高さを上げる。また自宅での試着サービスも取り入れているが、手持ちの服と合わせて着用できるためより具体的にイメージが湧きやすいことから、試着した顧客の7割が購入に至るという。

写真:著者撮影

同様に顧客の悩みに1対1で答え、ファッションアイテムの提案を行うのが、モバイルベースのコンシェルジュサービスを行う「FACY」だ。同サービスは台湾でも展開している。たとえば「スーツに合うリュックは?」「初デートでの勝負服がほしい」など顧客がモバイルアプリ上で悩みや要望を送ると、提携する複数のショップスタッフが商品を提案してくれるので、気に入ればそれを店頭に試しに行ったり、ECで購入したりできるという仕組み。利用者は、忙しくて買い物をしている余裕がない、都市部勤務の富裕層が多いという。

出典:FACY

ファッションはTPOによって着る服を変える必要があったり、そもそもの数が膨大だったりと、プロのスタイリングが価値を持つ領域ではあるが、ビューティの場合は、「プロが提案してくれるところまでは良いが、最終的には自分で選びたい」と考えるユーザーも多い。すぐに脱ぎ着できるファッションと違い、直接自分の肌に乗せ、一度メイクしたものは落とすまでに時間がかかることから、冒険しにくいという理由もあるだろう。そうした「最終的には自分で選びたい」顧客ニーズにどれだけ寄り添いつつ、最適解を提示できるかが、ビューティのパーソナライズサービスには求められそうだ。

(左)ストライプデパートメントの松本均氏、(右)FACYを運営するスタイラー株式会社の小関翼代表取締役最高経営責任者

顧客の潜在意識を探るために、現場のデータを重視

美容業界にとって、データの利活用は大きな課題だ。テクノロジーの進化により取得できるデータの量や幅は広がったが、それをどう販売現場に活かしていくべきかは多くの美容企業が日々探っている。また前段階として、どのようなデータをどこで取得するか、そしてそれを顧客とのコミュニケーションにどうつなげていくかも課題と言える。パネラーの話から共通して見えてきたのは、日々刻々と進化を遂げるテクノロジーへの向き合い方と、顧客の潜在意識を探るために現場のデータを重視する必要性だ。

SXSW(編集部注:毎年3月にテキサスで行われる音楽祭・映画祭・インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベント)で、「2020年のショッピング体験」というテーマで、MRショッピングを提案し話題を呼んだPARCOは、小売業界のなかでも珍しく、率先して最新テクノロジーに挑み続けるイノベーターだ。数々のプロジェクトを率いる同社の林直孝執行役は、小売業者自らが最新テクノロジーに取り組む理由について次のように説明した。

「さすがに来年はまだゴーグル(VRヘッドセット)をつけたまま生活している人はいないだろうが、ゴーグルそのものがもっと軽い眼鏡に進化したらスマホをいじるのがもどかしくなり、指先でゴーグルが映し出す世界を操作するようになるだろう」。

来るべき未来に向けて、いち早くトライアンドエラーを繰り返しておく必要があるという。

左からパーフェクトの磯崎順信代表取締役社長、エフ・ジー・ジェイの出合氏、パルコの林氏

また林氏はデータの活用方法についても、「お客さまにはこれが似合います、とオススメされると気持ちが動きやすいことは統計的に分かっている」と、AIによる画像認識技術などを元にしたレコメンデーション機能を導入することでポジティブな結果が生まれやすいと指摘。ただそうした情報はあくまでデータ活用による結果に過ぎず、最終的に顧客の心を動かすのは、店員が笑顔で「お似合いですよ」と声をかけることが一番だと強調する。そこに行き着くまでに利用するものがデータであり、テクノロジーとは「最適な接客を行うためのデータの取得手段」というのが林氏の考えだ。

株式会社カネボウ化粧品は、今回のイベントのテーマでもある「フィジタル」を、自社のキーワードにかかげ、「企業としていかにお客さまの期待値に見合ったコンテンツを提供できているか」(メディア企画グループ 加藤義久部長)がフィジタルを考える上で大切だと話す。

カネボウ化粧品 メディア企画グループ 加藤義久部長

「いまどきオンライン・オフラインがつながっているのは当たり前で、重要なのはそこにお客さまが自ら進んでコミットしたい何かがあるか、他人に共有したい何かがあるか」(同氏)。加藤氏が言及する「何か」を探る上で顧客データの取得は欠かせないが、適切なデータを得るには広告だけでは限界がある。「オンライン、オフライン問わずさまざまなタッチポイントで自社が提供する『コト』に関与してもらう必要がある」(加藤氏)。

その一環として、自社のウェブサイト上でYouCamのバーチャルメイクの採用を開始した。これにより、バイアスのかかっていない素のデータの取得に期待ができるという。旧来のアンケート調査では、顧客は、「自分に似合う色は?」といった質問に対し、日頃使用している色味を答えがちだったが、自身では気づいていないだけで、もしかするともっと似合う色があるかもしれない。バーチャルメイクで普段とは違う色を複数試すことで、これまでにない気付きを顧客自身が得られる可能性がある。そうしたリアルタイムに近い情報を、新たにマーケティングや販促のデータとして活かしていく考えだ。

データの取得において、「大事にするべきは現場」と強調する株式会社LDH JAPAN(元日本ロレアルCDO)の長瀬次英CDOは、現場を重視する理由を次のように説明する。

LDH JAPANの長瀬次英CDO

「オンラインで取得できるデータは、(利用しているサービスが同じなので、どの企業においても)同じになりがちだ。『30代』と一括りにして、『だったらこれが好きでしょう?』と答えを提示する時代ではないのだから、皆が持っている情報なんてどうでもいい」とキッパリ言い放つ。

また、「インサイトを探るには、現場でしか拾えないデータを武器にしていかないと意味がない」とも訴える。長瀬氏は、「購入時には『ありがとう』と言ったのに、あとからクレームをつけるお客様もいる」と、本当の顧客心理を探るためには、どういう言葉をかけ、どういうサービスをしたら顧客がどういう表情やリアクションをしたか、その日の空調やライティングは、といった現場だからこそ得られるデータに目を向ける必要があると話す。そこにこそ、ブランドの差別化が図れるヒントがあるからだ。美容企業は、現場で収集した情報をいかにデータ化し、ビジネスにつなげていくかという方向性でデジタルを見ていく必要があるというのが長瀬氏の考えだ。

同じく現場で、購入行動を見るべきだと話すのは、アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京 シニア・プリンシパルの廣澤篤氏。同氏が着目するのは、「買ってもらえなかったデータ」だ。近年はRFIDタグや、タブレット付きショッピングカート、インタラクティブなサイネージなど、店頭で買い物中の顧客情報をあらゆる形で取得できるようになり、「手にとったけれど、興味がなくて買われなかった」などの分析も可能になった。ただ現時点では「買われなかった」という事実までしか分からず、「なぜ」を理解するには推測するしかないが、しっかりそこで仮説を立て、次の一手を打つことが重要だと説く。

左から、アクセンチュアの廣澤篤氏、ELGCの宮下麻未氏、
一部セッションのモデレータを務めたBeautyTech.jp編集長 矢野貴久子

AIやAR、VRといった最新テクノロジーに詳しい株式会社オプトのメディアデザイン部 フィジタルマーケティングラボ 総合プロデューサーの中川太氏は、モデレータを務めた納富隼平氏の「美容業界で求められるフィジタル体験を作るためには?」という質問に対し、もっとデータの取得範囲を広げるべきだと主張する。

写真右が、当イベントの共同主催者としてモデレータを務めた
合同会社pilot boatの納富隼平CEO

「今のデジタルマーケティングはモニターの中でしかない。リターゲティングにしても、広告は結局ユーザーのオンライン上での閲覧行動に紐付いている」。そこで同氏が提案するのが、ARやVRなどの活用だ。「リアル空間のユーザーの行動までとれる。その利活用はもっと広がっていいだろう」(中川氏)。

オプトの中川太氏

また位置情報が日本でも普及してきたことに触れ、そこでもやはり使えるのが「AR」だとする。近年は、『Pokémon GO』などの流行により、AR×位置情報サービスも浸透してきているが、データ取得のための活用となると、まだ企業のハードルは高いようだ。中川氏がいくらARの有用性を訴えても、「ARを使っている人は、人口の何%? 結局リーチできるのこれだけでしょ?」と目先の数字に囚われた話にいきがちだといい、これは危険だと警告する。ARの使いみちはこれまで難しかった「リアル空間でのデータ取得」にあるからだ。

そこに価値を見出して予算を投下できるかが、他の業界同様、美容業界にとっても求められていることだと中川氏は強調した。

Text: 公文紫都(Shidu Kumon)
Image: TAISHO

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