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1分で1本が売れた実績も。顧客データもとれる中国ブランドの「口紅自販機」

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10年前まで飲料の自動販売機すら見かけることが稀だった中国で近年、野菜や搾りたてのオレンジジュース、福袋など、実にさまざまな自販機(その多くはモバイル決済のみに対応)が登場するようになった。美容分野も例外ではない。今や都市部のどこでも見かけるようになったのが口紅の自動販売機だ。

中国において、化粧品関連の自販機が登場したのは2016年ごろだ。日用品大手のJahwa(上海家化聯合)が海虹橋空港や浦東空港などにフェイスマスクの自販機を設置したのが最初とされている。Jahwaは、中国で数少ない100年企業の1社だ。同社の前身である香港広生行が設立されたのが1898年で、2018年に創業120周年を迎えた。化粧品ブランドの「Shanghai VIVE(雙妹)」やフェイスマスクブランドの「HERBORIST(佰草集)」など、日用品から化粧品まで9つの自社ブランドを展開する。原材料に中国医学の生薬を使用するなど、中国の伝統文化にこだわった製品づくりをしている。

一時期は日本の花王の販売代理をしていたが、2016年に提携を解消。一方で2017年6月には、子会社Abundant Meritを通じ、英国の哺乳瓶ブランド「Tommee Tippee」を傘下に持つMayborn Groupを約2.93億米ドル(約322億円)で買収している。

当初は普及しなかったフェイスマスク自販機

同社は2001年に上海証券取引所に上場。現在の時価総額は約178億元(約2873億円)に達する。直近の決算報告によると2018年第3四半期(7~9月)の営業収入は、前年同期比9.95%増の17.55億元(約282.9億円)。純利益は同31.68%増の1.37億元(約22億円)と好調だ。

同社は近年、販売におけるIT化を進めてきた。2016年に開催した新商品発表会ではその一環として「デジタル体験店E-store」を披露。E-storeはタッチパネルやホログラムムービーなどが搭載された自販機で、まったく新しい体験型店舗との触れ込みであり、それが空港などに設置されたわけだが、あまり話題にならず、その後同社が「E-store」について触れることはなかった。化粧品自販機を最初に導入したものの、その試みは失敗に終わった。

中国の新興メーカーが仕掛ける口紅自販機

時を同じくして浙江省杭州市の銀泰百貨店では、あるイベントが行われ、多くの若い女性がつめかけた。そのイベントとは、中国の新興化粧品ブランド「瑪麗黛佳(MARIE DALGAR)」が、アリババグループの展開する「TMALL(天猫)」とのタイアップで仕掛けたもので、口紅の小型無人販売店として自動販売機を出現させたのだ。

ユーザーはまず自販機のQRコードをスマートフォンで読み込み、MARIE DALGARのTMALLアカウントをフォローする。そこで好きな口紅を選ぶと、自販機に搭載されたモニターでバーチャルメイクもできる。気に入ればモバイル決済し、実際に品物が出てくるというO2Oを取り入れた仕組みだ。同イベントは、3日間で約1600本の口紅を販売するほど好評だった。平均すると1分間に1本の口紅を販売し、1台のマシンの1日あたりの売り上げは、既存店舗の1週間分に相当したという。

MARIE DALGARとTMALLのタイアップで実現した
口紅の無人販売店。多くの若者が殺到した。
(出典:「中国美妝網」)

MARIE DALGARはCEOの崔曉紅氏が2006年に創業した新興化粧品メーカーで、マスカラの開発・販売で成功を収めた。崔CEOは2008年になってブランドの母体となる上海菲揚化粧品を設立。その後、商品カテゴリーを広げるとともに、国際的なメークアップアーティストを招聘し、アートを取り入れたブランディングで差別化を図ってきた。20代女性からの支持が厚いため、消費者はECサイトをはじめ、無人店舗や自販機などの新しいチャネルへの抵抗感がない。

出典:MARIE DALGERの公式サイト

アリババが毎年11月11日に実施する「独身の日(双11、ダブルイレブン)」セールでは2016年から2年連続、国内ブランド内での売り上げが1位だったという。2017年のセールでは、1時間で売り上げが3,685万元(約5.9億円)を突破した。同社はケンタッキーフライドチキンとコラボイベントを行ったりインフルエンサーを積極的に活用したりと、若い女性に対して常に新しいプロモーションを仕掛けている。

TMALLとのイベント後、同社は中国各地の百貨店やショッピングモールのインベントスペースで期間限定の無人店舗を開設。口紅だけでなくアイライナー、ファンデーションなども販売した。どれも1個9.9元(約158円)という安さから毎回多くの女性顧客を集めた。また、常設店舗にも自動販売機を設置。口紅だけでなく、たとえば上海市のショッピングモール・龍之夢購物中心にある店舗のすぐ外には、サンリオのキャラクター「ぐでたま」 とコラボした自販機が設置され、クレンジングオイルが販売されている。

これまでの、いわゆる伝統的な自販機では、代金と引き換えに品物を受け取るだけの機械にすぎなかったが、スマートフォンを活用してECサイトの公式アカウントをフォローさせ、支払いまでを完結させることで、顧客データを収集できるようになった。これが自販機戦略におけるMARIE DALGARとJahwaの大きな違いである。

ゲーム要素を取り入れ成長した「口紅機」

2018年になって、美容業界における自販機はさらなる進化を遂げる。ゲーム要素を取り入れた「口紅機」の登場だ。見た目は普通の口紅の自販機だが、40~50ほどの箱の中から商品を選ぶと、液晶画面に金額が表示され、その金額で直接購入するか、1回10元(約160円)でゲームに挑戦するかの選択が表示される。さまざまなメーカーが口紅機を販売しているが、ゲームのルールはほとんど同じだ。

液晶画面の中心で丸い物体が回転しており、画面をタップするとその物体に勢いよく口紅が刺さり、何回かその動きを繰り返す。それらの口紅がかぶらずに全部刺せれば成功となる。第3関門まで突破すると、選んだ口紅をもらえる仕組みになっている。MARIE DALGARの自販機同様、現金は使用できず、モバイル決済のみに対応している。

現在、中国で普及している「口紅機」。
右側の中央にあるモニタでゲームを行う(著者撮影)

ゲームに成功するのは簡単ではないが、10元という手軽さと誘惑には勝てず、多くの人が購入ではなくゲームを選択する。購入の場合は200元~300元(約3,320~約4,830円)と値が張るので、それならばむしろ通常の店舗やECで購入した方が消費者メリットはある。口紅機は若い女性の利用が多いが、ガールフレンドの前でいい格好をしたい男性の心理もうまくつかんでいる。

口紅機はTikTok(抖音)に投稿されたことで火がつき、中国各地のショッピングモールやゲームセンターに設置されてきた。口紅機が爆発的に増えた要因はそれだけではなく、“転売市場”の発達もある。口紅機の稼働率を上げるためには、魅力的な商品を入れなければならないため、どうしても海外ブランドの商品が多くなる。中国メディアの報道によると、一番人気はディオールで、次がイヴ・サンローランだという。しかし、各メーカーはブランディング上の問題から口紅機への商品供給を許可しない。つまり、それらが本物だとすれば、ハンドキャリーや平行輸入、正規品の在庫横流しなど、転売市場で調達した商品ということになる。

「口紅機」でゲームを行う様子(著者撮影)

中国のゲーム機器メーカー・天璧品牌によると、口紅機の利益率は50~60%だという。1日の売り上げは1,000元~3,000元(約1.6万~円約4.8万円)とされ、1カ月の利益は約24万~72万円になる。機械本体の価格が約19万~約25万円ほどなので、すぐに元が取れる計算だ。その参入障壁の低さも、口紅機が普及した要因の一つになっている。

今後もこのまま口紅機は増え続けるのかという問いにはノーだ。中国はとりわけひとつのブームが終焉するのが早く、ニセモノが流通している可能性があるなど問題点も多い。このゲームはユーザーの技術ではなく確率が成否を決定するため、賭博ではないかという指摘すらある。第1関門と第2関門は比較的簡単だが、第3関門になると丸い物体の回転が早くなり、ほとんど運まかせになるからだ。

中国のある弁護士は、中国メディアの取材に対し、「賭博罪には該当しないものの、成功率を明示していなければ詐欺罪に該当する可能性がある」と指摘する。中国では、メディアと同様にゲームは規制産業である。もしブームがこのまま続いても、当局から規制されかねない。そういった観点からすれば、MARIE DALGARが展開するような購入とマーケティング目的の自販機がもっと普及するに違いない。

Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)

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