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LVMH傘下のBenefit Cosmetics、前年比売上160%は周到なSNS・アプリ戦略から

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ミレニアルやZ世代から絶大な支持を受け、グローバルでも存在感を高めているBenefit Cosmetics。けっして新興ブランドではなく1976年スタートのいわば老舗ブランドだ。注目度が急上昇中のその秘密はInstagramをはじめとする巧みなソーシャルメディア戦略と、徹底してブランドの強みを生かしたアプリにあった。

2018年9月26日、英国ロンドンで開催された「Beauty Trends & Innovations」カンファレンスで、登壇した資生堂EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)のイザベル・ロジャース(Isabella Rogers)氏が提示したスライドの1つが目を引いた。2018年8月の英国におけるEMV(EuroPay、MasterCard、Visa)売上げトップ10のビューティブランドを表にしたもので、1位がM・A・Cの1,288万4,118ドル、2位のAnastasia Beverly Hillsの1,233万6,689ドルに続き、Benefitが1,043万4,821ドルで3位につけ、前年比160%と驚異的な伸びをみせていたのである。

ロンドンで開かれたSocial Media in Beauty Day

同カンファレンスでは、ポストイベントとして、翌27日に「Social Media in Beauty Day」が開かれ、ソーシャルメディア・マーケティングにテーマを絞り講演やパネルディスカッションが行われた。登壇者の1人としてBenefit Cosmetics UKのアシスタント・デジタル・マネージャーであるソフィー・ヴォラー(Sophie Voller)氏が登場すると、会場からはひときわ熱い視線が注がれた。

セールスより顧客エンゲージメント

1976年に双子の姉妹が米国サンフランシスコで創業したのがはじまりのBenefitは、決してデジタルエイジの新興ブランドではない。1990年に社名をBenefit Cosmeticsに改めたのち、米国の大手デパート内に店舗ブースを構え、続いて英国に進出するなどグローバルな展開を図った。1999年にLVMHに買収されて傘下に入り、2000年代からは実店舗数の拡大と同時に、オンライン・ショッピング環境の拡充にも力を注いでいる。

Benefit ホリデーシーズンセット2018

レトロポップなイラストやタイポグラフィーに、キュートなマカロンカラーを多用したパッケージと容器デザイン。同時に、発色や機能性に優れた品質の良さ、それでいて手頃な価格と、BenefitがミレニアルやZ世代に多大なる人気を博している理由は色々ある。だが、ソーシャルメディアを使いこなして、ブランドのファンコミュニティをしっかりまとめ上げるマーケティングが、躍進のかなめとなっているのは間違いない。

ステージに立ち、同社のInstagram施策について語るヴォラー氏の口調も明快だ。「ソーシャルメディアとはすなわち、顧客とのリレーションシップを築くためのもの」と彼女は言いきる。「とくにInstagramにおいては、セールスではなく、顧客とのエンゲージメントに注力すべき。コミュニティと良い関係がつくれたなら、売り上げはおのずとついてくる」。

マクロとマイクロの使い分け

ソーシャルメディアの発達と普及は、ブランドが消費者に近づくことを、かつてないほど容易にした。人々はフィードに送られてくるブランドからの情報を見聞きし、気になったものには“いいね”やコメントで反応する。チュートリアルをはじめとする動画を楽しんだり、チャットを通じておしゃべりもできる。つまり、「情報の入手や交換」「返答や意思表示」「エンターテイメント」「会話」という、コミュニティを活性化させるのに必要な、コミュニケーションを構成する要素がプラットフォーム上に全て揃っているのだ。

では、具体的にこの状況をいかにして活用すべきか。ヴォラー氏は、「マクロ・モーメント」と「マイクロ・モーメント」の2つの磁場をつくりだし、コミュニティにアプローチをしていると説明する。

マクロ・モーメントとは、巨視的な観点に立って、人々が興味を持ったり、参加したくなるようなテーマを発信することを意味する。特定の商品をPRするのではなく、コミュニティの共感と連帯を深める投稿を軸に、ブランドカラーを浸透させるものだ。講演の際に例にあげられていた「the blindfolded makeup challenge」のように、目隠しをしてメイクをしあった結果を撮った画像の投稿など、コミカルでお茶目、ハッピーなトーンが、「自由にメイクを楽しむ」というBenefitの思想を自然に伝えていく仕掛けになっている。

Sophie Voller氏のスライド

これに対して、マイクロ・モーメントはピンポイントに、「広告」としてのオフィシャル投稿を利用し、たとえば、クリスマスコフレや花嫁のためのスペシャルセットといった限定商品を紹介するようなものを指す。よりターゲットを絞り、実際的な情報をコミュニティに届ける役割を持っているのだ。

オーガニック投稿の活用

この「マクロ・モーメント vs. マイクロ・モーメント」は、フォロワーが自由意志で発信するオーガニック(自然発生的な)ソーシャルメディアと、インフルエンサーなどに報酬を支払う有料キャンペーン(広告)の関係に近いかもしれない。多くのブランドがそのバランスに苦慮しているなか、Benefitは明確な使い分けをしていることをeMarketerの2017年11月のインタビュー で明らかにしている。

それによると、予算をかけた有料キャンペーンは、年間の販促スケジュールのなかでも、とくにキーとなる大規模プロモーションのときにのみ集中して行われるという。なぜなら、広告はブランド認知を高める点においてのみ効果を発揮するとBenefit Cosmeticsは考えているからだ。

一方、オーガニックな投稿を募ったり、取り上げてハイライトするキャンペーンは、消費者の嗜好などの情報収集と顧客エンゲージメントの意味を持ち、エンターテイニングで、フォロワーの役に立ち、インスピレーションを与えるものであるべきだとしている。

同時に、オーガニック・ソーシャルメディアを通して、まさに自分たちのブランドの顧客やファンが集うコミュニティの会話に参加することの大切さを強調する。これはなかなか興味深い。登壇したヴォラー氏も、マクロでもマイクロでも、「ブランドが言いたいことではなく、コミュニティが求めているものを提供する場にしなければならない」と繰り返し語っていたのである。

AR技術による眉メイクアップツール

ソーシャルメディア・マーケティングを成功に導くには、もう1つ忘れてはならないポイントがある。それは、コミュニティがオーガニックな投稿をしたくなるような体験をつくることだ。

2018年1月15日、AR技術による眉毛のバーチャルメイクアップツール Benefit Brow Try-On が、各国の自社オフィシャルサイトを含む、40を超えるプラットフォームで一斉ローンチしたが、これはBenefitにとって大変重要な意味を持っていた。

化粧品市場調査会社Poshly Inc.とPerfect365が共同で2016年に行った調査によると、ミレニアル世代の女性の78%が「購入する前に自分にそのコスメが似合うかどうかをバーチャルに試せたら、オンラインで買う動機が高まる」と答えており、BenefitもすでにARメイクアプリを導入している。

しかし、ファンデーションやリップカラーなどの再現力はかなり高いのだが、こと眉毛に関しては、ベタッと色をのせただけの不自然さが拭えず、現実のメイクからは程遠い。2017年のプレステージ・アイブロウ製品部門のグローバルな総売上高で世界ナンバー1を誇る“眉毛スペシャリスト”のBenefitには、到底満足できるものではなかった。

1月に登場したBenefit Brow Try-Onは、ModiFaceと提携し1年がかりの研究開発の末に、この課題をクリアしたものだ。最先端のフェイシャル・マッピング技術を採用し、セルフィー上の本人の眉の自毛を活かして、本物そっくりに、しかもさまざまなシェイプの眉を描くことに成功した。

出典:Benefit Cosmetics

ユーザーはサイトのLive 3Dにアクセスし、セルフィーをアップロード。15種類の眉毛サンプルから好きな形を選び、毛の濃さや色味、角度などを調整するカスタマイズがリアルタイムでできる。ベストの眉毛が完成したら、画像の保存や投稿をしたり、Get this browタブから、Benefitのどの製品、どのカラーを使えば自宅でこの眉が作れるかの説明やレコメンドが受けられる。そしてもちろん、そのままおすすめ商品の購入も可能だ。

反響は大きく、「眉を抜いたり、カットしなくてもいい」「色々な太さや長さ、眉高が試せる」「タップするだけで簡単」と、ソーシャルメディアは、驚き喜ぶ利用者のコメントで溢れた。

Benefit Cosmeticsによれば、Benefit Brow Try-Onのユニークビジター数は100万人を超え、1人あたりおよそ6.6個の眉を試すという。サイトの滞在時間も90%増となった。だが、なにより特筆すべきは、何らかのアイブロウ製品の紹介ページをチェックしたユーザーのコンバージョン率が、同サイトの平均に比べ80%増にまで跳ね上がる数字をたたきだした点だ。同社は今年度、アイブロウ製品と関連サービスで6億ドルの売上高を予測している。

ブランドの看板商品を、テクノロジーを活かしたマーケティングツールでパワーアップし、ソーシャルメディアと連携させることで、人々を動かす大きな流れを生み出す。Benefit Cosmeticsの成功から学ぶことは多い。

Text: そごうあやこ

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