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ノインやHowTwo、POSMEなど話題のサービスが提供する「価値体験」の中身

◆ English version: How Tokyo is disrupting beauty tech
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2018年4月13日、サンフランシスコ発のBeautyTech MeetUpが東京で初開催された。同MeetUpは、サンフランシスコ以外にもロサンゼルス、ニューヨーク、ソウル、パリなど各地で開かれており、活発でリアルな情報交換を行うイベントだ。これまでに延べ1,000人近いBeautyTech関連の起業家や投資家が参加している。今回は初の東京でのMeetUpの様子をレポートする。

東京会場でのモデレーターを務めたのは、本家BeautyTech SF MeetUpに参加し、自身もコスメのスタートアップCosme Hunt Inc.を立ち上げたサンフランシスコ在住の起業家、高橋クロエ氏だ。BeautyTech Tokyo MeetUp Vol.1は、MeetUpの発起人であり、ランコムの元CEOで投資家のオディール・ルジョル(Odile Roujol)氏からの「業界の動きは早く、これからどうしていくべきなのかを皆でともに考え合う機会として、より本質的で率直な話し合いによる意義のある時間にしてほしい」というビデオメッセージでスタートした。
セッション1つ目のテーマは、「日本のミレニアルとZ世代へのソーシャルアプローチ」。いま話題の美容アプリやサービス、プロダクトを提供する企業のリーダーが集まり熱い議論となった。その内容をレポートする。

情報過多の時代に、いかに適切な情報を届けられるか

1つ目のセッションに登壇したのは、動画コマースアプリ「noin」を開発するノイン株式会社の渡部賢代表、30日間無料でコスメの現品を試せるHowTwo株式会社の越塚麻未COO、株式会社資生堂の新規事業担当として2018年1月にコスメ事業「POSME」をスタートしたイノベーションデザインLab.の山崎賢氏、著名マーケターとして知られる事業構想大学院大学の江端浩人教授の4名。「日本のミレニアルとZ世代へのソーシャルアプローチ」をテーマに活発な意見交換が行われた。

まずは、登壇各社の事業内容を見ていこう。

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ノイン株式会社 渡部賢代表

ノイン株式会社は2016年11月に創業。コスメ・スキンケアに特化した動画とECを組み合わせた「動画コマース」事業を展開する。LINEの前進であるNAVER Japan株式会社で検索事業を担当していた渡部氏は、ソーシャルゲームのGREEに移りメディア事業に従事したのち、2015年にフリーランスに転身。

キュレーションメディアのGunosyなどさまざまなメディアに関わり、新規事業立ち上げなどを行った。メディアに注力してきた同氏が起業して、コスメ関連事業を始めたのは、「化粧品業界は商品が溢れかえり、人々は情報過多になっている。そのなかで情報格差が生まれ、情報を届けたい側と欲しい側との間で非対称性が生じているから」と説明。

NAVERやニュースメディアで培ってきた「膨大な情報から何を選択し、届けたらいいのか」を考える経験はコスメに活かせるはずだと、かねてより注目していた動画を活用した事業を立ち上げた。「何を買ったらいいかわからない」という消費者の悩みを動画で解決することを目指している。2018年3月、シリーズAで約3億円を調達した。

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HowTwo株式会社 越塚麻未COO

2016年4月創業のHowTwo株式会社は、もともと動画と記事で美容情報を発信するメディア事業を手がけてきたが、2018年2月、自宅に届けられるコスメを30日間無料で試せる新サービスをスタートした。商品はサンプルではなく、すべてフルサイズの“現品”。しかも新品だ。ユーザーは1回につき1つの商品が申し込める。

届いた商品についてアプリ内とTwitterでレビューをすると、返却義務がなくなりそのまま使い続けられる。ローンチ当初は、無料使用期間1週間、一度に注文できる商品は3つまでという条件だったが、反響の大きさとユーザーの要望に沿うためサービス内容を変更した。越塚COOは、「商品の選択肢が多いなかで、自分に合ったものをどうやって見つけて買ったらいいか。実際に使ってもらい、自分に合う良い商品だとわかれば購入するという流れが自然になると思った」と、多くの女性からのヒアリングをもとに、サービスを開始した背景を説明する。

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株式会社資生堂 イノベーションデザインLab.の山崎賢氏

資生堂からは、新規事業立ち上げを目的に2017年1月、社長直轄でスタートしたイノベーションデザインLab.の山崎氏が出席。イノベーションデザインLab.は、いわゆる社内ベンチャーである。同氏は資生堂という大企業が社内ベンチャーを始めるにあたっての、強みと弱みを紹介。弱みはスタートアップにくらべスピードで劣ること、強みについては知名度とした。その知名度を活かして立ち上げたのが、公募で集めた日本の女子高生とさまざまな業種や企業をオープンイノベーションという形でつなぎ、コスメなどを開発・販売するプロジェクト「POSME(ポスメ)」だ。

将来的には海外進出し、POSMEを「日本を代表するブランドにしたい」という山崎氏。「誰と一緒に作ったら海外の人にも注目してもらえるかと考えたときに、女子高生というキーワードを持ってきた」。また、日本の若年層人口が少ないことから、「企業側がこのマーケットに対し投資しづらくなっている」と言及し、「一つの企業としては投資しづらいところに私たちがどうやって事業を作り、日本のブランドを強くしていけるのか。それを考えたときに、この方法を思いついた」という。

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事業構想大学院大学の江端浩人教授

コカ・コーラのデジタルマーケティング部門を率いるなど、著名マーケターとして知られる事業構想大学院大学教授の江端浩人氏は、「ミレニアル世代をどうやって連れてくるか」がコカ・コーラ時代のテーマだったことを明かした。

同氏がデジタル部門の責任者に就任した頃はまだテレビCMが中心で、世界的に「コカ・コーラへの若者離れ」が加速。デジタルへの移行が急がれていたという。江端氏によると、「炭酸飲料は、20歳までに飲んだことがない人は一生飲まない。つまりティーンエイジャーのうちに(顧客として)獲得できないと、ブランドが長期的なダメージを受ける」のだ。ロンドン五輪時にはLINEに企業スタンプの提案をするなど、日本のデジタルマーケティング界で数多くのイノベーションを起こしてきた江端氏。

これまでの経験から、「デジタルは人々の欲求を引き出すことができる。しかしECとなると、デジタルだけではなかなかうまくいかない。リアルなイベントを開くなど、体験と結びつけることが重要」と語った。

SNSの使い分けなど、若い世代へのアプローチはどうやる?

資生堂が公募で集めた女子高生と一緒に商品開発をしているとあって、「どうやって若い世代へアプローチするのか?」とモデレーターの高橋氏から各社に質問があった。

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モデレーターを務めた高橋クロエ氏

資生堂はウェブサイトで募集をかけ、集まった70〜80名の女子高生全員を面接。最終的に20名まで絞ったという。「興味深いのは、1組を除いて全員が1人で応募してきたこと。僕らの世代とは違う」(山崎氏)と、友だち同士での応募が少なかったことに時代の変遷を感じるとした。

一方、世間的なInstagramの盛り上がりとは対照的に、Twitterを利用しているHowTwoの越塚COOはその理由として、「世間的にInstagramが流行っていて、インフルエンサーを活用したマーケティングはInstagramを使ったものが多いが、私たちはあえてTwitterに注目している。美容が好きな女性を研究したところ、彼女たちはセンシティブで、 Instagramにはすごく“キラキラ”している(しすぎている)という印象を持っており、Twitterという文字ベースのメディアで発信したり、コミュニティを作って気軽にコミュニケーションしたりするほうが盛んだとわかった。だから当社ではTwitterと連携し、お客さまにはHowTwoで試した商品情報をTwitterで発信してもらっている」と説明する。

事業構想大学院大学の江端教授も、「メディアによっていろいろな特性がある」と、HowTwoの取り組みに賛同した。「Instagramは越塚さんが指摘する通り“キラキラ”していて、認知を稼ぐのに良い。 一方Twitterはマスメディア的な拡散もあるけれど、短い言葉で本音を書きやすく、“自分ごと”化しやすい」。

動画コマースのノインは現在自社アプリを開発・提供しているが、「効果検証の場として使うためにInstagramからスタートした」という。「どういう切り口の動画がいいのか。見せ方や企画は?と。Instagramを使っている世代に刺さりやすい動画を検証していった」(渡部氏)。

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セッション風景

重視するのは、世代よりも「価値観」や「マインド」

他社との差別化をどう図っているか。モデレーターの高橋氏からの質問に対し、各社からは興味深い答えが返ってきた。

まずInstagramを効果検証の場にしていたノインが、動画を作っているなかでたどり着いたのは、「化粧品がコンプレックスに近しい分野」ということだ。「非の打ち所がないような完璧な女性が出て来ると、“差が分からない”などといったヘイトコメントが付きやすい」(渡部氏)。そのため、動画を見ている女性の悩みに寄り添うようなコンテンツ作りに力を入れたという。

ノインはEコマース事業を展開しており、動画を通じた情報発信だけではなく、最終的に“買う”ところにまで結び付ける必要がある。「何か面白い情報はないか」と単なる情報収集を目的に閲覧しているユーザーと、ノインが獲得したいと考えている「情報収集の末に、実際に商品を買いたい」顧客とでは求めるものが異なるわけで、メディアの作り方も後者に合わせて考えなくてはならない。渡部氏によると、再生数が伸びたり商品の購入数が上がったりするのは、「そのコスメを使った結果、どう変わったのか」がハッキリと目に見えるもの。そして、多くの女性が日々悩み、すぐに解決したいと思っている「自分の悩みをどうカバーするか」を具体的に示せるコンテンツなのだという。

高橋氏の「動画でモノは売れるのか?」という質問に対しては、「まだ全商品を動画でカバーできているわけではないが、動画のある/なしで購入率が相当変わってきていることもあり、当社の定量的な分析からすると“売れる”といえる。ただし、動画のメディアだったら(何でも)モノが売れるかというとそうじゃない」と、ECを目的にするのであれば、コンテンツとその見せ方が重要だと訴えた。

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画像:noinのスマホアプリ画面

資生堂は、POSMEプロジェクト第一弾商品として、2018年1月、持ち運び可能なチップ形状のカラーアイテム「Play Color Chip(プレイカラーチップ)」(6枚入り、税込324円)を発売した。同商品は、リップ、チーク、目元、眉など、自由に使えるマルチユースのカラーアイテムで、1回で使い切る。従来は自分1人で使用するカラーアイテムを「シェアできる、交換できる」というコンセプトにすることで、「友人とコミュニケーションも取れるようなアイテムにした」(山崎氏)。

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画像:Play Color Chip

なぜこのような商品を開発したのか。山崎氏はメーカーを取り巻く厳しい現状を挙げ、「今は、“モノ”よりも“コト”という流れがある。消費者は時間もお金も、“コト”に使う。若くなればなるほど、コトによるコミュニケーションに関心が高い。お金を持っていない若い世代に対し、どれだけ“モノ”と“コト”を絡めたアプローチができるか」が大きな課題として前提にある。加えて、買い物モードの時以外に、いかに接点が持てるかも重要だと訴えた。「これまでのように、流通に商品をのせれば売れるというのではなく、いろいろなトライをしていかなければいけない」と山崎氏は話す。

HowTwoの越塚氏は、「時代の流れ」という言葉を使い、自社サービスの差別化ポイントを示した。「消費者は購入に対して慎重になっている。また、キレイなモデルや女優が使っている化粧品を使えば、自分も同じようになれるわけじゃないことも、皆わかっている。だからこそ今の時代、多くの女性は本当に自分に合ったものを求めている」とする。

さらには、ウェブサイト、デパート、ドラッグストアと、オンラインでもオフラインでも購入場所が増えているなかで、「どう女性たちに情報とサービスを届けていくか」を考えた。そこでこだわったのは、無料であり、そして現品が届くことだ。「今はメルカリのように、自分の持ち物ををすぐキャッシュに変えられる。つまりサービスに対しても、すぐに何か自分の得になるような“リターン”を求めているのではないか。当社では、無料で、しかも現品にすることで、すぐに“得”を感じられるようにした」(越塚氏)。

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画像:HowTwoのスマホアプリ画面

また、会場からの「若い女性は1歳、2歳の年の差でメディアとの接し方やコミュニケーションが違う。タッチポイントが多様化するなかで、どうアプローチを変えているか」という質問に対しては、「コアターゲットとしては20代後半〜30代を狙っているが、世代よりも、価値観やマインドで差別化できる時代になってきている」と越塚氏は答えた。

「年代や世代という切り口で切っても、好きなものやマインドがかぶるとは一概にはいえない。使うサービスやライフスタイルも全然違う」としたうえで、世代でひとくくりにするのではなく、コスメを買うことが好きで、コスメに関する情報を集め発信したい層を意識しているとした。その意味では、10代〜60代までがターゲットになり得るという。 「そういう方々が発信した情報を周りの友人が聞き、リアルなコミュニケーションで広まっていく」。HowTwoがテキストベースのTwitterを重視する理由がここにも現れている。

コストがかかる動画や現品送付のメリットは、LTV向上?

最後にマーケターの江端氏が3社の取り組みを踏まえ、「なぜ動画や現品送付など、一見コストがかかるマーケティングを行うスタートアップが出てきたのか」について解説をした。「コストがかかってもこういうマーケティングをするのは、獲得した人のLTV(ライフタイムバリュー)が上がってくるからだ。これからはどんなものでも、サブスクリプションモデル(定期購入モデル)になる可能性がある。買うことが決まっているものだったら定期的に家に届けてくれればいい、という考えだ。Amazon Dashボタンがいい例だろう。ひとたび顧客を獲得しサブスクリションモデルで商品を届けられれば、その分利益が大きくなる。だからこそ企業としてもコストをかけやすくなる。」

また資生堂の新規事業に対しても、次のように述べた。「自社で開発した商品はエグジットコストが高くなり、なかなか抜けられないという問題がある。今回紹介された資生堂のような取り組みは、今後増えていくのではないだろうか」。

どの世代でも同一サービスを利用する時代。意識するべきは?

今回は、流行をけん引し、消費の世界でも存在感を示しつつあるミレニアル世代やジェネレーションZ世代へのソーシャルアプローチというテーマでの議論だったが、「世代よりも、価値観やマインドで差別化できる時代」というHowTwoの越塚氏の意見に象徴されるように、〇〇世代という区切りで考えることは正しい方向性なのかと思わせる展開となった。なぜなら、スマホやソーシャルメディアが浸透したことで、どの世代でも同一サービスを利用する傾向が強くなってきたからだ。LINEやメルカリの幅広い利用者層をみれば一目瞭然だろう。

もちろん年代によってサービスの細かい使われ方は異なるかもしれない。しかし“使ってもらう”や“買ってもらう”のに主軸を置くのであれば、あえて世代で区切る必要はなく、“何に興味がある人に”、“どんな人に”サービスを利用してほしいのかを意識するべきではないだろうか。

ノインの渡部氏の言葉を借りるなら、「僕らはお客様にどうしてもらいたいのか? どういう状態の人たちに使ってもらうのが、自分たちが達成したいゴールに一番近づけるのか? そのコアな部分を大切にしてプロダクトを作ると、割と早い段階から反応が出やすいのかなと思う」ということだ。これからのプロダクトやサービス作りについて、いろいろと考えさせられるセッションとなった。

次回は2つめのセッション、ファッションや美容業界で、今後AIをどう生かしていくかの議論についてレポートしたい。

TEXT:公文紫都(Shidu Kumon)
Top Image: Alex Holyoake via Unsplash

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